128万部を突破する2017年最大のベストセラー『九十歳。何がめでたい』がこのたび、朗読劇になった。先日95才になった著者・佐藤愛子さんを演じるのは、77才の女優・三田佳子さん。実は佐藤さんを口説き落とし、演出を石井ふく子さん(92才)に頼み、今回の舞台を実現させたのは他ならぬ三田さんだ。「先生の生き方は私のあこがれで、50年前からずっと演じてみたかったんです」と言う三田さんが、佐藤さんと本書の魅力を語り尽くした。
* * *
見た目でも90才の雰囲気を出そうかと思ったんですけど、ふく子先生に、「老ける必要はない」と言われました。確かに、愛子先生はお綺麗ですからね。腰も曲がっていません。けれども、前から走ってきた自転車にぶつかりそうになったらよたよたっとする、そういう感じはうまく出したいなと考えています。
愛子先生は、とても95才に見えないんですよね。先日も、私が出演した人形劇の舞台(「人でなしの恋」)を観に来てくださったんですが、休憩時間にファンに囲まれてしまって。「先生、お写真を」なんて、きゃあきゃあ、わあわあ、大変な騒ぎでした。オーラがすごくて。それが先生の「いま」なんです。
ご自身では耳が遠くなって聞こえにくいのよ、目だって昔のようには見えないわ、よれよれしてるのよっておっしゃいますけど、ちっとも、そんなふうに感じさせない。
そもそも私は、愛子先生が『戦いすんで日が暮れて』で直木賞を受賞(1969年)された、あの時代からのファンなんです。受賞作の、愛子先生の役をやりたいなあ、とそのころ東映の女優だった私は思っていました。まだ入社して10年にもならない出たての女優で、東映という映画会社の枠の中では、残念ながらその願いはかないませんでしたけど。
ご家族について書いた『血脈』も離婚したご主人とのことを書いた『晩鐘』も、ずっと読んできました。先生が88才の時にお書きになった『晩鐘』、地味ですが、すばらしい作品です。これまでの本を読んできたからなおさら、じーんと胸に響きましたね。
その後の、『九十歳。何がめでたい』です。読んだとき、「これしかない、私がやらせてもらえるのは」って思いました。この先、待っていても、自分の命があるかどうか何の保証もないじゃないですか。だからこそ、「いまだ!」と思ったんです。
80才で亡くなった私の母も、先生みたいに美しくはないけど、毅然とした人でした。先生にはどことなく母の気配を感じるの。だからかな、何か迷ったり、つらいことがあったり、病気をして自分がしゅんとしたり、この先、大丈夫だろうかなんて思ったりしたときは、枕元に置いた先生の本を少し読んでから寝るんです。そうやって励まされて、いろんなことを乗り越えてきた気がします。
そのぐらいね、いつも声を出して笑っちゃうんですよ。あのなんとも言えない文章のリズムやおかしみを舞台の上でどう表現するかは難しくて。愛子先生は「あとはあなたの演技力ね」なんておっしゃるから、つらいの(笑い)。
◆「本当に強い人ね」と
ふく子先生は、笑いやユーモアはもちろんだけど、泣かせたいっておっしゃいますね。演出家として、やっぱり一か所、お客様をさらいたい、という気持ちがおありになる。
泣くけれども、そこでは終わらない。たとえ泣いても、「何やってんの、愛子」って自分を叱咤激励して立ち上がる。もうひと頑張りしなきゃと、そんなふうに終わるのがいいんじゃないかと思います。