自らの高額報酬を過少申告した有価証券報告書虚偽記載(金融商品取引法違反)の疑いで逮捕された日産自動車のカルロス・ゴーン会長。東京地検特捜部は法人としての日産も立件する方針だというが、司法取引の中身もベールに包まれ、罪状がどこまで広がるか予断を許さない。また、アライアンスを組む仏ルノーがゴーン容疑者のCEO留任を決めるなど、日産連合の結束力にも綻びが見え始めている。果たして日産の未来はどうなってしまうのか。法政大学大学院教授の真壁昭夫氏がレポートする。
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有価証券報告書は企業(法人)の作成物であり、個人が作成するものではない。本来であれば、その責任は作成者である企業が負うべきと考えられるものの、事件当初の各種報道を見るとそのようにはなっていなかった。一部報道にあるように、日産の関係者が司法取引に応じた可能性があるからだ。事実関係を理解するには今後の捜査や調査を待たなければならない。
この問題を受けて、日産自動車とルノー、三菱自動車の3社のアライアンス体制がどうなるか、不透明感が高まった。特に、フランス政府にとって日産の技術力は今後の雇用や経済運営を進めるうえで重要だ。仏政府の利害も絡み、日仏の自動車メーカーのアライアンスを巡る議論は、一段と複雑になる可能性がある。
◆ゴーンによる日産自動車の支配
11月19日、日産自動車はプレスリリース『当社代表取締役会長らによる重大な不正行為について』を発表した。それによると同社は、代表取締役会長カルロス・ゴーンと代表取締役グレッグ・ケリーによる不正行為に関する内部調査を進めてきた。
その結果、ゴーンによる不正行為が認められ、ケリーが不正行為に関与したことが明らかになった。記者会見の場で日産自動車の西川広人社長は、(有価証券報告書への報酬額の虚偽記載、投資資金の私的利用、会社経費の不正使用)という3つの不正行為があったと明かした。つまり、ゴーンが意のままに同社を管理してきたということだ。
会見の場で西川社長は、企業統治=コーポレート・ガバナンスの点から考えると、一人の人物にあまりに大きな権限が集中しすぎていたことを認めた。特に、2005年にゴーンが日産の親会社である仏ルノーと日産のCEOを兼務するようになったことは、権限の集中を加速させたという。
日産にとってルノーは、1990年代以降の経営難を乗り切り、業績回復への支援を行った恩人だ。また、ゴーンの指揮の下、ルノー・日産グループ内でのシナジー(相乗効果)が発揮されてきたことも確かだ。そのため、ルノー・日産連合のトップであるゴーンの考えに、周囲が異を唱えることが難しい状況が出来上がったと考えられる。ある意味、ゴーンは日産を支配し、それに対する不満が徐々に同社内で蓄積されてきた可能性がある。