シリアで約3年4か月、イスラム過激派組織に身柄を拘束されていたジャーナリスト・安田純平氏に向けられた“自己責任論”はいまだ止む気配がない。
しかし、国際NGO「国境なき医師団」の一員として、シリアやイラク、南スーダンなど世界中の紛争地で8年間にわたって看護活動に従事する白川優子氏はそこに疑問を呈した。
「人は誰しもが自分の意思で、自分の人生を決めています。私も自分で決めて『国境なき医師団』に入り、紛争地へ行くオファーを受けている。自分で決めた行動に責任を持つのは当たり前のことですが、シリアから生還した安田さんに対して『自己責任』という言葉だけで批判が集まるのには違和感があります」
白川氏には職業ジャーナリストを目指した時期があったという。
「紛争地や被災地で看護師として活動する中で、一番大きなジレンマは、現場の悲惨さや問題を十分に伝えることができないこと。『シリア軍の空爆で、30人が亡くなった』という内容が報じられたとしても、私は十分とは感じません。実際に現場に立ったときに目に映る光景は、もっと凄まじい。
人の手足が飛び散り、乳飲み子のお腹が裂けてしまっている。真っ黒になった遺体の横で、最後の力を振り絞って助けを求める血まみれの人……。その現場のディテールを伝えるには、遠くから眺めるのではなく、そこに自分の足で立たなければならないと感じています。私は医療によって人を救う道を選びましたが、誰かが現地に行かなければ、状況は伝わりません。ジャーナリストの方々も、何か強い思いがあって行っているはず」