愛憎劇の印象は、演じる役者によって強烈に異なってくるものだ。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が注目の作品について分析した。
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「激しく濃厚なラブサスペンス」「泥沼愛憎劇」「バトルがスゴすぎる」と大仰な文字が番組の公式ページに躍る。木村佳乃主演ドラマ『あなたには渡さない』(テレビ朝日系土曜夜11:15)の愛憎バトル劇が話題です。正妻と愛人の修羅場は、もう笑えるくらいの「激突」ぶり。ドロドロの痴情話は、やり切ればある種のパロディ的娯楽に昇華する、ということでしょうか。
ただし、ちょっと「ドロドロ」を仕掛け過ぎている観もあり。公式ページには女同士の対決シーンの映像の上に、わざわざ文字で「ご主人をいただきにまいりました」といった刺激的なセリフを書き込んでの掲示。「どうかみなさん、このエグさを話題にしてください」と言わんばかり。「狙い」過ぎると今の時代、逆に作戦が透けて見えて視聴者が引いてしまうリスクもなくはない……。
それもこれも、すべては今後の展開でいかに「真に迫る本気のドロドロ芸」を見せてくれるか、にかかっています。
物語は……料亭「花ずみ」の御曹司で板長・旬平(萩原聖人)と結婚し専業主婦として生きてきた上島通子(木村佳乃)。しかし通子は突然、夫の愛人・矢萩多衣(水野美紀)の存在を知ることに。悪びれもせず通子の前に現れた愛人は宣言する。「わたくし、ご主人をいただきにまいりました」。
性格のきつい女社長、着物でピシッときめた愛人に、水野美紀さんが見事に成り切っています。一方、裏切られる妻・通子を演じる木村佳乃さんは、「専業主婦」という役柄を意識してかスッピンに近いメイク、マッシュルームのようなシュートカット。「役者として新境地を開拓しよう」と意欲満々であることが伝わってきます。
通子はひるまず多衣に立ち向かっていく。夫の料亭が負債で倒産寸前と知ると、夫の署名が入った婚姻届を担保に、なんと6000万円を借りたいと多衣に交渉(!)。手にしたその金で、自分が「花ずみ」の女将となり料亭を立て直そうと格闘……。
物語の設定はたしかにドロドロ。でも、木村さん演じる通子に、どこかドロドロ感が薄いように感じるのは私だけでしょうか?
通子という人物を擬態・擬音語で表現すれば「スッキリ」「はっきり」「しゃきっと」。一方、愛人・多衣を演じる水野さんは、真綿で首を絞めるように陰湿に攻めてくる。擬態・擬音語でいえば「ねっとり」「じっとり」「じめじめ」「ぐちぐち」。そう、メロドラマに必須の湿度と粘度を感じさせます。
もし、「泥沼愛憎劇」と高らかに謳うのであれば、2人の女は互いにじくじくとしたねちっこさを見せつけてほしい。