プロ野球ファンにも複雑な感情をもたらすのが「FA移籍」。その成功が容易でないことは歴史が証明している。何が選手を苦しめるのか。鳴り物入りで移籍するも、その後まったく活躍できない選手の名前を連想する方もいるだろう。
優勝できるチームに行きたい、幼い頃からの憧れのチームでプレーしたい、高額年俸を稼ぎたい……実績を残したプロ野球選手なら抱いて当たり前の思いがFA移籍の背景にあるが、「夢」ばかりでは片付けられないシビアな現実もある。
「なんといっても周囲からは『カネ』が動機と見られがちになるのが苦労の源です。複数年にわたる高額年俸が、選手に様々なかたちでプレッシャーとなって襲いかかる」(元デイリースポーツ編集局長・平井隆司氏)
ちょっとでも数字が落ちると、移籍先のファンから“高いカネを払ったんだからしっかり働け”と野次られ、古巣の本拠地での試合では“カネ目当てで出ていった奴”と敵視される。2001年に中日から巨人へFA移籍した前田幸長氏はこう語る。
「ナゴヤドームでは中日ファンから“裏切り者!”と野次が飛んできましたよ。ずっと、“裏切ったわけじゃないのに……”と思いながら投げていました。ナーバスな選手はプレーに集中できなくなり、“もし残留していれば……”などと考え出すと迷いで本来の力が出せなくなる。FA移籍後にそんな悪循環に陥る選手を何人も見てきました」
前田氏は巨人に移籍後も中継ぎとして安定した成績を残したが、「深く考えないタイプだから、なんとかなった(笑い)」と話した。