警察の内部事情に詳しい人物、通称・ブラックテリア氏が、関係者の証言から得た警官の日常や刑事の捜査活動などにおける驚くべき真実を明かすシリーズ。今回は、警察内部でいう「いい泥棒」の意味を解説する。
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「いい泥棒を捕まえれば、しばらく楽ができる」
そう語ったのは、仲間から「すっぽん」と呼ばれた元刑事だ。
先日、何人もの元警察官が出ている警察あるある的な特番を見ていた時、盗犯係をしたことがあるという1人の元刑事が、泥棒の話題で「いい泥棒」という言葉を口にした。その言葉を聞いた時、「すっぽん刑事」のニヤッとした笑顔を思い出した。
いつも署にいて、ほとんど休むことない。もそっとした印象ながらも一度食いついたら絶対に離さない、すっぽんさながらに犯人を追い続ける。そんな仕事ぶりから、彼についたあだ名は「すっぽん刑事」。
ある強盗団を捜査していた朝のこと。当直していたはずのすっぽん刑事が、時間になっても出てこないことがあった。
「あれ、いない。どうしたんだろう?」
同僚たちは不思議に思った。
いつもなら、とっくにデスクについているはずの時間。捜査に出たわけでもない。デスクには、たばこがそのまま置かれていたからだ。
おかしいと思った同僚が、彼が休んでいたはずの休憩室に見に行った。声をかけたが返事はない。すっぽん刑事は布団の中で気絶していたのだ。
「過労だよ、過労。捜査が立て込んでて、休みを取るどころじゃなかったんだ。呼ばれて、意識はうっすらとあったんだが、妙なもので身体がまるで動かない。起き上がれないんだよ。おまけに身体の力が抜けてしまって、脱糞してたんだよな」
同僚に担がれ、休憩室から運び出され、署にあった風呂に入れられた。1人では歩けない、風呂にも入れないほど彼は疲労していた。着替えさせてもらい、警察の緊急車両で自宅へ送られ、そのまま床についたという。
さすがのすっぽん刑事も数日間は休むだろう、同僚の誰もがそう思った。ところが翌朝、彼はいつもと変わらず出勤し、同僚たちを驚愕させた。体力勝負の警察官でも、すっぽん刑事の体力と精神力は半端なく、その熱心な仕事ぶりは部下たちから信頼された。すっぽん刑事が、犯人がそこにいると言えば、自分の読みより彼の読みを優先したというぐらいだ。
そんな仕事一筋、休むことを知らないすっぽん刑事に「しばらく楽ができる」と笑顔で言わせた「いい泥棒」に興味がわいた。
「いい泥棒なんて、一般市民が聞いたら怒るよな」
そう前置きしてから、彼は話し出した。
泥棒にいいも悪いもない。絶対に悪い。だが警察には「いい泥棒」と「悪い泥棒」という警察独特の捉え方があるという。
「いい泥棒は、ひとつの事件で捕まっても他に余罪が200~300ぐらいあって、それを全部きれいさっぱり白状してくれる泥棒のこと。プロの泥棒だな。悪い泥棒は、1件か2件しか盗みをやっていない泥棒のことだ。世間的にはいい、悪いが逆なんだがね」
いい悪いが警察官にとって逆になる理由は「原票」にある。
原票とは、泥棒がいつ、どこに盗みに入ったのかという事件を記した票のことだ。事件数を多く挙げれば、それだけ原票も多くなり、自身の成績が上がる。原票は得点そのもの。“命みたいなもの”と例えた刑事もいれば、“現金と同じ”と表現した刑事もいる。それぐらい刑事にとって原票は重要だ。だから犯行件数が多い泥棒ほど、刑事にとっては一度に原票が稼げるいい泥棒ということになる。