有価証券報告書に役員報酬を過少記載したとして逮捕、拘留されている日産自動車前会長のカルロス・ゴーン容疑者。捜査の行方は予断を許さない状況になっているが、今後、もっとも気掛かりなのが、ゴーン容疑者が去った後、日産のクルマづくりに変化が生じないかということだ。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏が、日産ブランドの行く末を展望する。
* * *
日産自動車がフランスの自動車メーカー、ルノーの傘下に入った1999年以来、圧倒的権力者として君臨してきたカルロス・ゴーン氏が、日産社内から起こった“反乱”によって突如、失脚した。
この出来事は現在進行形であり、何が真実であり、どういう顛末を迎えるかということはまだ闇の中だ。今後の成り行きは見守るしかないが、自動車ユーザーとして興味が尽きないのは、ゴーン氏がいなくなったことで日産のクルマづくりに変化が起こるかどうかであろう。
ゴーン氏が逮捕された当日夜に開かれた記者会見で、「ゴーン体制下では(日産の世界戦略の中で)日本市場が軽視されていたように見えるが」という質問が飛んだ。西川廣人社長は、
「国内軽視ということはまったくない。過去に一時期、日本市場の重要性を十分に認識しない偏った意見をもとに意思決定がなされた時期があった。が、今はその影響からは脱しつつある。お客様からは日産インテリジェントモビリティを評価していただけていると思っている」
と反論した。この意見を日産ファンはどう受け取るだろうか。日産は昨年、新車の工場出荷前の完成検査に不備があることが明らかになったのをきっかけに販売を落としていたが、基本的には好調だ。
好調の要因として挙げられるのは運転支援システム「プロパイロット」とシリーズハイブリッド「e-POWER」の2つ。このいずれかを投入したモデル、たとえばミニバンの「セレナ」やサブコンパクトカー「ノート」は、装備前に比べて販売を大幅に伸ばしている。国内の顧客からも一定の支持を取り付けているという西川社長の言葉は間違いではないだろう。
だが、本当にそれが日産ファンの望む日産の姿なのだろうかと考えると、疑問符が付く。省エネルギー、自動運転、情報通信などの先端技術は、もちろんその自動車メーカーのサスティナビリティ(持続可能性)を担保する大事な要素だが、ユーザーにとって重要なのは、日産というメーカーが日本におけるクルマの選択肢を増やしてくれる存在であるかどうかだ。販売台数さえ確保できればいいというものではないのである。