【著者に訊け】畑野智美氏/『神さまを待っている』/文藝春秋/1600円+税
若年層、特に女子の貧困問題を、畑野智美氏(39)はいわゆる社会問題ではなく、個人的で切実な現実として、小説化する作家だった。
「私は昔からお金の不安と縁が切れたことがなくて。今も、いつ書けなくなってホームレスになるかわからないし、お金がないことを一番上手に書けるのは私だという自信はありました」
最新刊『神さまを待っている』の主人公〈水越愛〉は大学卒業後、派遣で働く26歳。いずれ正社員にとの口約束も果たされないまま契約は終了。家賃すら払えなくなった彼女は、漫画喫茶に寝泊まりして日雇いの仕事を待ち、やがて同い年の貧困女子〈マユ〉の誘いで出会い喫茶に通い始める。
店では客と外出することを〈茶飯〉、ホテルに行くことを〈ワリキリ〉といい、家族とも疎遠な愛には頼れる人もいない。そんな今や誰に起きてもおかしくない転落劇は、果たして本当に〈自己責任〉なのか?
小説すばる新人賞受賞作『国道沿いのファミレス』以来、早くも本作が21冊目。前作『水槽の中』が8年間の集大成にあたる「末っ子」とすれば、本作は「次の20冊を見据えた長女」だという。
「ただ私にとっては前々作『大人になったら、』に書いた30代女性の結婚や出産も、20代の貧困も、同じくらい切実で、別に今作から社会派を目指したわけではないです。特に今は新聞よりネットでニュースを見る時代なので、元々興味のある情報しか入ってこないし、私の場合その中でも〈神待ち〉やワリキリに走る貧困女子の存在が気になったというだけのことです。それもつらい現実をただつらいと書くんじゃなく、そこから一歩、できれば明るい方向に踏み出すことが、私が自分に課した課題なんです」
ちなみに「神待ち」とは、行き場のない女性が、その晩泊めてくれる男性を街角やSNSで探す行為をいい、まだそこまで割り切れない愛も、いつそちらに転んでもおかしくはなかった。