音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、「落語」と「独り語り」と「一人芝居」を総合した独自の新作落語を生み出している立川志らくにしか表現できないエンターテインメントの世界について、お届けする。
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上下を切って人物を演じる「落語」、演者が観客に語りかける「独り語り」、そして「一人芝居」。これらを総合した独自の新作落語を立川志らくが生み出している。昨年から始まった「志らく独り会」はこの新たなスタイルを追究する場で、第1回は昨年11月に表参道GROUNDで3日間行なわれ、前半に『芝浜』、後半に新作『不幸の家族』が演じられた。『不幸の家族』は志らくが主宰する劇団「下町ダニーローズ」が2016年に初演、2017年に再演した同名作品をベースにしたものだった。
今年の第2回は10月18日・19日に新宿・紀伊國屋サザンシアターで開かれ、僕は初日を観た。前半はシネマ落語『天国から来たチャンピオン』。シネマ落語は名作映画を江戸落語に翻案するもので、志らくの専売特許。過去70席ほど創作している。映画の『天国から~』はアメフトの選手が神様の手違いで死んでしまい、他人の身体に入り込んで生き返るという物語で、志らくはこれを江戸時代の花火職人の噺に作り替えた。
シネマ落語は古典数席の後、その後日談として演じられるのが通例だが、『天国から~』は古典の前振り抜きで成立する人情噺。2004年7月によみうりホールで開催された談志一門会で談春の後に高座に上がった志らくが談志の目の前でこれを演じたほどの自信作だ。花火職人辰吉と長屋の娘お玉の純愛を描くこの作品には、当時『たまや』という演題が用いられることもあった。