「日本はまたアメリカに譲歩した」「いや、日本は粘り強く交渉している」──9月に安倍晋三首相とトランプ米大統領が合意し、農産物や鉱工業品など「物品」の関税引き下げについて交渉に入ることになった日米TAG(物品貿易協定)に対する評価が分かれている。日本への影響は大きいのか否か? 大前研一氏が分析する。
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日米TAG(物品貿易協定)交渉に対する懸念が噴出している。TAGについて、日本政府は「交渉の対象は物品に限られ、サービスなども含めて関税の引き下げや撤廃を定める包括的なFTA(自由貿易協定)や、投資、知的財産権、電子商取引などのルール作りも含むEPA(経済連携協定)とは異なる」と説明し、農林水産品は過去のEPAで合意した範囲が最大限とする日本の立場をアメリカが“尊重”することを日米首脳会談で確認した、としている。
だが、アメリカ政府の認識は違う。USTR(米通商代表部)のライトハイザー代表は日本に対して完全なFTA締結を目指す考えを表明し、パーデュー農務長官もTPP(環太平洋経済連携協定)や日本とEU(欧州連合)のEPAを上回る農林水産品の関税引き下げを求める考えを示唆したのである。さらに、ペンス副大統領も「日本と歴史的な自由貿易交渉(Free Trade Deal)を始める」と演説し、FTAを視野に入れた幅広い分野での貿易自由化を目指す構えを見せている。
そもそもTAGは、日本政府の“造語”である。世界の貿易に関する協定用語には存在しない。国際間の自由貿易協定はすべてFTAと呼ばれる。実際、日米首脳会談の共同声明を見ると、「物品」だけでなく「サービスを含む他の重要分野で早期に結果が出るものについて交渉を開始する」として、投資、知的財産、不公正な貿易慣行なども交渉の対象になっている。
だが、日本政府にはアメリカと2国間のFTA交渉に応じたらTPPやEUとのEPAを上回る譲歩を迫られるという懸念が根強く、そうなれば来年の統一地方選挙と参議院議員選挙で農家の票を中心に安倍政権への逆風になりかねないため、FTAだけは避けろというのが至上命令だった。だから、苦肉の策としてTAGという“新語”をひねり出したのである。
◆日本はいじめられて強くなった