“猫は死期が近づくと姿を消す”といわれる。なぜそのような行動をとるのか真相は解明されていないが、動物は具合が悪くなると、安心して休めるよう、敵に襲われない安全な場所に身を隠す習性があるという。体力を回復させようと隠れたものの、そのまま死んでしまう場合もあり、それらの行動が飼い主からすると、自分の最期を予感して姿を消したように感じてしまうようだ。
「死に場所を求めて姿を消すのではなく、あくまで回復のために身を隠すだけ。むしろ猫は自分の死期を悟ると、飼い主にいつも以上に甘えたり、最後の力を振り絞って元気な姿を見せるなどの行動をとることが多いんです」
とは、往診専門動物病院「わんにゃん保健室」の院長・江本宏平さんだ。その意図は、死期を悟った猫が飼い主に対し、感謝の気持ちを示しているのではないかという。
「私はこの飼い主と愛猫の最期の時間を“エンジェルタイム”と呼んでいます。天国へ旅立つ前の大切な時間です」(江本さん・以下同)
◆自分でエサを食べられなかった愛猫が死の直前、元気よくミルクを飲んだ逸話も
江本さんが行う往診治療では、その特性上、病院へ通うのが困難な末期症状の猫や高齢猫と接することが多い。
「病気の完治を目指した治療はすでに難しく、余命わずかなケースも。生死をさまよう峠を2度越えられる子は多いのですが、3度目は厳しいのが現実です」
昨年もこんなケースがあったという。20才の愛猫の様子がおかしいと連絡を受け、自宅に駆けつけたが、すでに猫はぐったりと横たわり、心臓の音も弱々しかった。
「その場で点滴と高栄養ミルクの強制給餌を行いました。しかし状況は厳しいまま。もしかしたら今夜は越えられないかもとお伝えしました」
翌朝、飼い主から自力で排便するまでに回復したと連絡があったので、その時は峠を越えてくれたと思ったという。
しかし、その後また容体は悪化。自力でエサも飲み込めなくなり、食事は飼い主のサポートが必要になったが、それでもなんとか、2度目の峠は越えた。しかも翌日、奇跡が──。それまで全く飲み込めなかったミルクを自力で飲んでいたというのだ。
「弱っている体のどこにそんなパワーがあったのか。まるで“私、こんなに元気になったよ”と言っているかのように、ミルクを飲んでいました。その姿を見た時、イヤな予感がし、飼い主にもすぐ伝えました」
その予感通り、その翌朝、静かに天国へ旅立った。元気にミルクを飲む姿を見せてくれたのは、飼い主を安心させたい、20年間ありがとうの気持ちを伝えるためだったのだ。
「エンジェルタイムは、飼い主にとっても重要。別れへの心構えができ、臨終に立ち会っても静かな気持ちで送り出せます」
飼い猫がいつもと違う行動をとる。それがすべて死に直結するわけではないが、何かのサインかもしれない、ということを覚えておいた方がいいかもしれない。
※女性セブン2018年12月13日号