14のホテルすべてが謝罪文を発表、事実関係を概ね認め、北京・上海の衛生当局は調査へ乗り出した。呆れを通り越して憤りを覚える清掃実態であるが、筆者としては「またか」という印象だ。昨年末にも中国の五つ星ホテルでの清掃実態が動画投稿されニュースになった。便器を掃除するブラシでコップを洗うなどの内容で、ワイドショーでも取り上げられ解説したことは記憶に新しい。
繰り返されるずさんな清掃であるが、今回報道されたのはあくまでも“明るみになった”ホテルだ。これほど多くのホテルが、しかも料金の高い高級ホテルにもかかわらずということを思料すれば、エコノミーホテルも含めた他の施設で同様の行為が行われているのではないかという疑念を抱くのは当然だ。「清掃がそんないい加減ならば、レストランから飲料水までホテルの全てを信用できなくなる」という声もあった。
中国のホテル業界は外資系が中資系を上回るシェアを占めることで知られる。中国へは1980年代より外資系が進出しており業歴も長い。また、外資系ラグジュアリーホテルとはいえ、中国での運営コストの水準は概して低いといわれており、魅力的な市場なのだろう。
とはいえ繰り返される行為にブランドイメージの毀損は計り知れない。ホテルブランドは信用が基本だ。世界各国を旅しても均一クオリティのホテル利用という安心・安全を担保できる点にもワールドワイドチェーンの魅力がある。
ところで、今回の件でホテルブランドばかりがクローズアップされているが、ホテルブランドと実際の所有・経営・運営(清掃)は別に見る必要がある。
日本でも多くの外資系ホテルが林立、その看板からホテルブランドの経営にも見えるが、じつは日本の会社が所有・経営していることは多い。運営も経営会社の子会社というケースもある。すなわち、ホテル開発に際してブランドの看板をもってきて周知性を高め、海外のゲストも取り込む。中国でも同様、業界では一般的な手法だ。
ハウスキーピーキングについても、ホテルブランドが直接ハウスキーパーを雇用・教育しているわけではなく、各運営会社のスタンスによる。運営会社が直接雇用している場合もあるし、人手不足で委託会社から派遣されているケースも多い。今回の件ではブランド側が求める清掃クオリティが担保できていないことは明白であるが、ブランドの名前を貸しているリスクの顕在化ともいえよう。
もちろん「個別の従業員の問題と信じたい」(ザ ペニンシュラ 北京広報)というコメントが出たように、清掃員の個人のモラル・資質ということは前提としてはある。だが、中国人ジャーナリストによると、ホテルが急増し労働力不足の常態化は深刻な問題になっているという。
特に清掃員は低賃金ということもあり都市部の人々に人気がない。地方からの労働力が期待される中、地方出身者には衛生面に対する意識が低い者もみられ、十分な教育も行われていないという。また、中国のメディアによると「清掃員は低賃金で、清掃した部屋数に応じて報酬を上げるホテルもある」とのこと(新京報)。部屋数を稼ぐためにずさんな清掃が横行するのは目に見えている。