ここ数年、高齢者が多くの薬を併用している状態である「ポリファーマシー」が問題とされている。子供の頃の風邪やアレルギーなどの薬は別として、女性が本格的に薬を必要とするようになるのは、40代後半から50代。
この閉経期にポリファーマシーの原点があるのだとNPO法人HAP理事長で日本女性医学学会認定薬剤師の宮原富士子さんは言う。
「閉経により、脳、血管、骨、皮膚、泌尿生殖器などを守っていた女性ホルモンのサポートが一気になくなります。血管が硬くなって血圧が上がり、女性ホルモンの代替えとしてコレステロールが増えることもある。骨はもろくなって骨折しやすくなり、頻尿や尿もれも起きる。そして血圧を下げる降圧薬、コレステロールを下げる薬、骨粗しょう症の薬、排泄障害の薬、睡眠薬などが、次々と処方されるわけです。
さらに高齢期になると、足腰などの痛み止め、目薬、便秘薬、そして認知症の薬…と、どんどん増えていく。効き目が芳しくなくても、多少具合が悪くても、やめればもっと悪くなるような気がしてやめられない。その結果がポリファーマシーです。その人その人が積み重ねてきた結果ですから、単に副作用を避けるために数を減らすのではダメなのです」(宮原さん・以下同)
◆薬の内容、重要度を把握。服用中止の見極めも大事
では、何を基準に“適切な服薬”を判断すればいいのか。
「まずは処方されている薬の内容をよく理解することです。薬局では薬剤師が細かく説明しますし、今は各薬の効果・効能、成分などが記された説明書が必ず渡されます。また薬とのかかわり方は意外に個人差があります。これが“正しいかかわり方”と決めつけず、服用する親自身の気持ちや考え方を尊重することが大切。
たとえば、薬が好きで薬局に自ら薬を選んで買いに行く人か、常に医師の処方に従う人か。または薬以外の食事や養生などを重視する人か。その上で、処方されている薬を次の4段階の重要度別に分けてみましょう。
A:現在の健康維持のために災害時でも必ず必要な治療薬(高血圧、糖尿病の治療薬など)。
B:のんだ方がよいが、非常時には数日のまなくても命にかかわらない薬(骨粗しょう症、抗コレステロール薬など)。
C:対症的に使う薬(鎮痛剤、便秘薬、過活動膀胱治療薬、睡眠薬など)。
D:栄養補助的な薬
このように整理し、服用中止の候補を本人が納得できるよう話し合った上で、医師に相談するとよいでしょう」
そしてもっとも重要なのは、診察し、薬を処方する医師とのコミュニケーションだ。
「処方する医師にぜひ確認すべきことは、その薬がどの症状をどのように治療するためのものか。そしてどのような状態になったら服用を終了するか。つまり、薬のやめ時も意識して聞いておきましょう。薬は病気治療や症状緩和のためのもの。各薬の目的とゴールをしっかり医師と共有することで、薬の重要度が見えてくるはずです」