ゴルゴはさまざまな出来事に対して、“勘”で動いているように見えますが、実は自身の行動の裏付けとなる情報を事前に入手しています。その緻密でリアルな舞台裏の描写にも、毎号のように読者を唸らせるポイントがあるのです。
私も連載初期の頃からの長い愛読者のひとりです。多くの政治家や官僚がそうしているように、『ゴルゴ13』によって最新の世界情勢を把握するという読み方もしてきましたが、同時にこの作品を通して、インテリジェンス能力を磨くヒントも得ています。
◆ゴルゴの能力はAIに代替できない
私には、ゴルゴと「一神教の預言者」の姿が重ね合わさります。キリスト教やユダヤ教の「神(ヘブライ語のヤハウェ、英語のゴッド)」は、人間に怒ると、ジェノサイド(大量虐殺)を繰り出してきます。たとえば旧約聖書の「ヨシュア記」には多くの虐殺の記述があります。
神は預言者に対し、「人類を全滅させる」と言います。預言者は必死にそれを止めようとする。神と預言者の論争です。預言者は論争に勝たなければいけません。勝たなければ死滅してしまうからです。ゆえに一神教の世界では「論理」が磨かれました。
一方で多神教の日本では、神の前で二拝二拍手一拝すれば許されてしまう。神との間に緊張感はありません。ゴルゴは、一度でも負けたら終わり、という預言者的な極度の緊張感の中に生きています。インテリジェンスの技術は、身を守るための重要な術でもあったのです。
おそらく、世の中を見渡せば、ゴルゴと同等の狙撃力を持ったスナイパーはいるかもしれません。AIやロボット技術の進展により、その狙撃力が機械に代替される未来が来るかもしれません。
しかし、高度なインテリジェンス能力と狙撃力の両方を有しているのはゴルゴだけです。インテリジェンス能力とは、AIやロボットに代替できない、人間独自の能力と言っても過言ではありません。希有な存在であるからこそ、『ゴルゴ13』に“終わり”は来ないのです。