先進国のなかでいま、日本は最も安く外食できる国の一つになっていると言われる。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が指摘する。
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早いもので、気づけば今年も残りわずか──というような書き出しの原稿が増える季節がやってきた。工夫のなさにこうべを垂れつつも、物事には振り返りや総括というものも必要なわけで、2018年の「食」にまつわる事情をジャンルごとに振り返っておきたい。まず今回は「外食」から。
まずは飲食店事情から振り返ってみたい。いま日本の飲食店はさまざまな意味で岐路に立っている。象徴的な業態がファミリーレストランだ。売上業界No.1のすかいらーく(3594億円)と続くサイゼリヤ(1483億円)という年商合計5000億超の2社の牽引もあって売上を伸ばし続けてきたが、売上や利益率に陰りが見え始めている。
すかいらーくは客数減、サイゼリヤは為替レートの変動や天候不順による食材原価の高騰等、理由はさまざまあるが、慢性的な理由として飲食業界全体を取り巻く、「人手不足」という課題の根本的な解決策が見つかっていない。ドリンクベンダーの機械化や深夜営業の短縮といった手は打っているが、新規就労者に対するトレーニングコスト等、人手不足に伴う人件費の増大は避けられない。
現在、好調の回転寿司チェーンは調理の機械化によって、人件費の圧縮に成功しているが、回転寿司は機械化にもっとも適した業態であって、他の飲食業態にすぐに展開できるわけではない。「外食元年」と言われる1970年からまだ50年足らず。経費の構造から見ても、日本の外食産業の単価はいびつであり、だからこそ「ブラック」などと言われる働き方が露見してしまう。
極論を言えば飲食店の客単価が上がらない限り(正確に言うと、客単価上昇を客が受け入れない限り)、日本の飲食産業の未来は見えてこない。もっとも、各ファミリーレストランとも、客単価の引き上げなどには、一定の成果が見られる。ここに一筋の光明が見いだせるか。
一方、個人店はというと、繁盛店についてはかつてないほどの活況を呈していると言っていい。昨年一気に可視化された「飲食店の狭小化」は今年も絶賛継続中。5~10坪程度の広さで、スナックなど長く営業した店の居抜きに個人店が入るケースは相変わらず多い。
とりわけ今年の傾向としては、狭小化がさらに進み、狭小テイクアウト店が増えたこと。都市圏におけるケバブ店や新大久保の「ハットグ(ソーセージの代わりに大量のチーズが入った韓国版アメリカンドッグのようなもの)」はみるみるうちに増殖。極端なケースでは渋谷に開店した「レモンライス東京」のような1坪店舗も登場。業態とメニューの絞り込みで、存在感を示している。
狭小物件の人気の理由も「人手」だ。名店や海外で経験を積んだシェフが一人、もしくは夫婦等少人数で切り盛りする個人(家族)経営であれば、限りなく人件費は圧縮できる。そうして経営を軌道に乗せ、単価の高いメニューを導入していく。実際、長く人気となっている個人店にはそうした経緯を歩んできた店も多い。もちろん単純な「値上げ」ではなく、いい食材を仕入れ、技術や手数のかかる料理を提供する。そうして客の胃袋をつかみながら評価と単価を上げていく。どんな業界でもロードマップはさして変わらない。