「再発は覚悟していたけど場所が悪かった。いつ穿破が生じるかわからず、死神にポンポンと肩を叩かれるような恐怖心があった。死の仮宣言書を受け取ったような気分でした」
観念して手術を受けたが、患部を切開すると、想像以上に気管支と密着しており、がんを摘出できなかった。
「その後、前回のがんで陽子線治療をしてくれた医者らに熱心に勧められ、抗がん剤治療を始めました。二十四時間の投与を五日連続で行なう壮絶な治療で、目まいや吐き気がし、自宅で転倒して背骨を圧迫骨折しました。計五回の抗がん剤治療中、何度も気持ちが折れそうになったけど、幸いにしてがんはどんどん小さくなった。陽子線も当てられるようになり、計十二回の陽子線治療でがんが完全に消えました」
◆「善き人」でなくていい
なかにし氏は、「がんになっても医者に丸投げすべきではない」と強調する。
「これまで医者の言う通りに従って死んだ患者がたくさんいるわけで、それじゃつまらない。中にはあてにならない医者もいる。最初のがんで手術を勧めてきた医者に後から『何で陽子線を勧めてくれなかったんですか』と聞くと、『ウチの病院にはないから』と言われました。医師に丸投げして、みすみす命を落とすことはありません」
がんになった時、頼るべきは医者の「人格」ではないとも話す。