都内在住のA氏(71)が便秘に悩まされるようになったのは2年ほど前のことだ。ヨーグルトや野菜を多めに摂っても改善しなかったが、市販の便秘薬を試したところ効果が見られた。毎日服用して安心していたのだが、最近効き目が悪くなってきた。お腹が張って苦しい日が続いたため、仕方なく近くのかかりつけ医を訪れることに。
症状を説明すると、「便秘外来に行って検査をしてください」とA氏はいわれた。「便秘ごときで何故そこまで……」と思いながらも病院を替えて大腸の内視鏡検査を受けた。すると数日後、診断結果は「大腸がん」だった──。
便秘は女性の悩みと思われがちだが、高齢になると男性の患者が急増する。
厚労省が発表した2016年の国民生活基礎調査によれば、便秘患者の割合は20~50代では女性が圧倒的に多いが、60代から男性が増加し、70代では女性8.2%に対し男性6.7%。80代になると男女ともに10.8%と差がなくなる。その理由を、横浜市立大学大学院の肝胆膵消化器病学教室・主任教授の中島淳氏が解説する。
「加齢に伴い、蠕動という大腸の動きが鈍くなります。排便するための恥骨直腸筋や腹筋などの筋力も低下する。さらに“トイレに行きたい”という便意の感覚も高齢になるにつれて鈍っていくという研究結果もあります。若い女性に便秘が多いのは女性ホルモンの影響ですが、歳を重ねるほどに、男女ともに便秘要因が多くなるのです」
昨年10月に発行された「慢性便秘症診療ガイドライン」は、便秘の定義を〈本来体外へ排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態〉としている。