12月7日に行われた、映画『青の帰り道』の完成披露試写会で、主演を務める女優の真野恵里菜(27才)は「嬉しい思いでいっぱいです! この作品がやっとみんなに届く。この作品で改めて映画を作ることの大変さを知りました。私は絶対に作りたいって思っていたんです…」と言うと、壇上で言葉をつまらせ、あふれる涙をぬぐった。映画は、群馬と東京を舞台に、高校卒業後に別々の道を歩む7人の若者の夢と苦悩を描く青春群像劇。真野が見せた涙の裏には、完成披露では語られなかった深い理由があった。
「実はこの作品、ある事件によって一度撮影が中止に追い込まれているんです。お蔵入りする可能性も、充分にあった。だから予定から1年経ってこの日を迎えられたことは、ある意味、奇跡なんです」
そう語るのは監督の藤井道人さん。事件が起きたのは2016年8月23日。映画のメインキャストであり、撮影のため群馬のホテルに宿泊していた高畑裕太氏が、女性従業員への強姦致傷容疑で逮捕(後に不起訴処分)されたのだ。藤井監督は当時をこう振り返る。
「早朝、突然ホテルに警察が来て彼を連れて行ってしまったんです。その時点では、何が起きたのか誰もわからない。8月14日のクランクインから休みなしで撮り続け、この日が終われば翌日は撮休だった。『あとちょっとで休みだから頑張ろう』とみんなで話していたところだったから、衝撃も大きかった」
藤井監督を含めたスタッフらも、同じホテルに泊まっていた。プロデューサーの伊藤主税さんも、警察の対応、高畑への事実確認など状況把握に必死だった。
「お昼ごろにようやく事情が判明しましたが、撮影を続けられないことは明らかで、混乱の中、スタッフ全員で東京に戻りました」(伊藤プロデューサー)
その後も、前代未聞の事件に報道は加熱していった。撮影中に起きた事件ということで藤井監督は精神的に落ち込み、しばらくは外出すらままならなかったという。
「映画の撮影期間にあのような事件が起きてしまったことに責任を感じ、もう二度と映画監督はできないだろうと覚悟していました。撮影は7割方終えていて、長さは90分ほどあったのですが、とても撮影を再開して公開できる状況ではない。精神的にまいってしまい、ずっと家にこもって寝ているか、撮った映画の編集をしていました。世には決して出ることがない映像だけど、ぼくらはこれだけの作品を作っていたんだ、と。その一心で黙々と編集していました」(藤井監督)
絶望の淵に立った監督を救ったのは、プロデューサーだった。
「撮影中止になった時点で監督が撮っていた映画はとてもいい内容でした。このまま終わらせるわけにはいかないという気持ちは、監督もぼくも同じ。“絶対に来年撮ろう”という約束を、2人で交わしました」(伊藤プロデュサー)
事件からしばらく経ち、スタッフやキャストが集まり解散を伝える場で、監督とプロデューサーは恐る恐る、「今回はダメだけれど、日を改めて最後まで取りたい」と切り出した。
「もう一度やりたい」
一番に応えたのは、主演の真野。それに続く形で、「私も撮りたい」「ぼくも」──と、ほかのキャスト陣も次々と声を上げた。