【書評】『語り継ぐこの国のかたち』/半藤一利・著/大和書房/1500円+税
【評者】嵐山光三郎(作家)
いまの日本はこれまで保持してきた「この国のかたち」がひっくりかえり、社会秩序は崩壊し、価値体系がご破算となり、経済は混乱をつづけ、社会的にアナーキー状態になっている。バブル破綻という時流の勢いで精神的にも破壊されて「近代日本の第三の転換期」と半藤先生は喝破する。
昭和五年生まれの歴史探偵は、この難局をいかに乗り越えるか、という対症療法的な解決法ではなく、長期的観点からの処方箋を示します。「もう老骨なればこそ」と、その大いなる使命を読者に託そうとする。
第一部「この国に戦争が遺したもの」では「わたくしの八月十五日」として、「戦争で死ぬということ」が体験として語られる。軍部の暴走をゆるした統帥権という化け物。老骨先生が語るヒトコトヒトコトが、身にしみていきます。若い人に読んで貰えるように読みやすさを考慮して、文献の旧漢字を新字にし、漢字をかなに改め、句読点やルビを付けた。
第二部「この国の未来に伝えたいこと」では「言論の自由をいかに守るか」。言論の自由はある日突然に奪われるものではなく、権力によって外堀から内堀へとじりじりと埋められ、いつのまにか言論は動きがとれなくなる。