【書評】『大政翼賛会のメディアミックス 「翼賛一家」と参加するファシズム』/大塚英志・著/平凡社/ 2500円+税
【評者】大塚英志(まんが原作者)
久しぶりに禁じ手(?)の自著書評。手塚治虫、長谷川町子、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、あるいは花森安治や戦後の電通の重役たちの名前が出てくるので全方位に角が立つ。(現に朝日新聞に「翼賛一家」ネタでコラム寄稿をしただけでデスクが出てきてねちねち忖度を求められた。しなかったけど)で、書評の類、見込めないです。
日米開戦のちょうど一年前、発足直後の大政翼賛会宣伝部が自ら「版権」を握った「翼賛一家」なるまんがのキャラクターデザインと設定を朝・読・毎など全国紙各誌で一斉に公開、プロからアマチュアまで国民参加のメディアミックスを仕掛けた、って何か三谷幸喜の舞台にでもありそうな話だけど実話。
人気まんが家から若手まで総動員で。一斉に複数の作家による新聞雑誌の同時多発連載、単行本も続々。そこに新人・長谷川町子や酒井七馬が混じる。病み上がりの古川ロッパは年末にレコーディングに翻弄、NHKはラジオドラマ、金語楼の新作落語。
この「翼賛一家」(というより翼賛会のメディアミックス)は「素人」参加が肝。実は「素人」という語は翼賛用語。前のめりの朝日新聞は、キャラクターを使った読者の二次創作まんがを募集、その参加する「素人」の一人として、終戦の年、大学ノートに翼賛一家のキャラクターを用いた二次創作を書き残したのが16歳の手塚治虫。最後の「翼賛一家」の作者であった。