就活が「売り手市場」と言われる中、誰もが知る有名大学の学生ならば、みな複数の内定を得ているはず──と思いきや、さにあらず。意外なことに、「高学歴就活難民」がいるのだという。就活塾・キャリアアカデミーの宇佐川景子氏がその実態を解説する。
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早稲田、慶應といった有名大学の学生で、自分なりに努力したにもかかわらず、内定が出ない就活生のことを「高学歴就活難民」といいます。これだけ「売り手市場」と言われているにもかかわらず、なぜ“難民”が生まれてしまうのでしょうか。
早稲田大学のOさんも高学歴就活難民の一人です。
「ワセダ」というブランドに加え、TOEICで900点という高得点を取ったOさんは、自分でも大手有名企業に行けるものだと思っていました。彼は、食品、金融、メーカーなどの各分野で最大手の企業のみを受けました。履歴書の“見栄え”は良いため、エントリーすればたいてい面接に進めます。
しかし、面接はスペックだけでは通過できません。「弊社でどんなことをやりたいですか?」といった基本的な質問にすら、具体的に答えることができませんでした。取り繕ったような受け答えをすると面接官は曇った表情を見せ、Oさんは自分が期待はずれだと思われていることを察しました。
あちこちの企業で面接しては落とされることを繰り返していましたが、「大企業に行きたい」「妥協したくない」という気持ちから、中堅以下の会社は受けず、結果として、多くの学生が就活を終える大学4年生の6月になっても「無い内定」(内定を一社も獲得できない)の状況に陥ってしまいました。周囲にいるのは、同じリクルートスーツを着て「夏のインターン」に参加する、ひとつ後輩の就活生でした。
Oさんは「会社説明会に足しげく通い、就活本を読み、約50社にエントリーシートを出していたので、就活への努力は十分しているつもりになってしまっていました」と語ります。「でも、振り返ってみると周りも努力はしていて、よいのは学歴だけで、考える力も行動力も“人並み”だと今はわかります」
Oさんは大学4年生の9月末まで就活を続け、結局中堅金融会社に内定を取りました。同級生の就職先からはワンランク落ちる会社ですが、Oくんは「自分の能力を考えると、この内定先は妥当だ」と語っています。
◆先輩の実績から「高過ぎる自己像」が生まれる
高学歴の学生は、先輩から「俺は商社に内定」「私は広告代理店に行く」といった話を聞くことになります。成功した先輩は話をしたがるし、就活生も成功した先輩の話を聞きたがるのは当然です。成功談を聞いた就活生は、“なんとなく”自分もそういった会社に行くのだろうと思うようになります。本当は、就活がうまく行かなかった先輩も数多く存在するのですが、彼らはあまり自分の就職先を後輩に語らないため、現実を知ることがありません。
さらに、親族や友達からも「有名大学に入ったのだから、有名大手企業に行くのだろう」と期待されることが、根拠のない自信に拍車をかけます。その結果、「自分も当然有名企業に」と思い込み、冷静に見ると、自己像が高すぎる状態になるのです。