音楽の力を科学的に研究し、心身の健康に生かす、音楽療法。今は精神疾患などの病気治療や予防、ストレスケアなどに活用され、高齢者施設でも行われている。高齢者に対しては、具体的にはどんなことが行われているのだろうか。
音楽療法の研究と実践に携わり、介護施設などで高齢者に生き生きとした元気を届けている日本音楽心理学音楽療法懇話会会長の貫行子(ぬき・みちこ)さんに、高齢者向けに実施する主なプログラムを聞いた。
「まず、日時や場所がわからなくなりやすい認知症高齢者のために日時や場所などにかかわる会話(「見当識訓練」)や、ストレッチや発声練習、腹式呼吸、脳トレなどの〈身体機能の維持・改善〉を行います。
次に〈回想〉。昔を思い出すこと自体がよい刺激ですが、懐かしい歌を歌うことで、その歌詞から故郷の風景や若い頃のイメージが湧き、自分の人生が価値あるものと考え直すきっかけになります。唱歌『故郷』などは人気です。
続いて〈リズムによる刺激〉。主にハンドベルや打楽器、海外の珍しいものなども使い、リズムを刻みます。特に“叩く”ことはとても気分がよくなります。ストレスがたまったときは、お鍋の底でも叩いてみてください(笑い)。
このほか〈情緒の安定化〉のため、参加者の状況に応じて活性的音楽と鎮静的音楽を使い分け、歌ったり、聴いたり、演奏したりします。また〈集中力の回復〉のためのデュアルタスク。たとえば歌いながら手拍子をし、三拍目を休むなどのゲームを行います。
最後に、療法を行った感想を話してもらいます。これが実は大事。音楽によって自分の中に起きた変化を言葉にする〈自己表現〉。アメリカの心理学者が『自己実現が人間としてもっとも幸せな体験』と語っていますが、その自己実現に当たるものです」
プログラムの最後に、貫さんのピアノ演奏などでクールダウンする。静かでゆったりとしたメロディーを聴くことで心が鎮静化されるという。
「シャンソンの名曲『枯葉』などはとても好評です。いつも療法が終わると多くの参加者が“また聴きたい、歌いたい”“若返った”と、積極的に声をかけてくださいます。音楽に感動し、心がポジティブになっているのが目に見えてわかるのです」
心身を健康に導く音楽の力を、もっと生活の中に生かしてほしいと貫さんは言う。
音楽は個人の好みもさまざまだ。親の健康のために生かしたいと思えば、どんな音楽を選ぶとよいのだろう。