「きっとこの店を気に入ってくれたんじゃないかしら!?」。そう弾むような声で、本誌・女性セブンの直撃に答えたのは、世界有数のゲイタウンで知られる東京・新宿二丁目にあるバー『九州男(くすお)』のママ・増田逸男さん(71才)。そこにはバンド「クイーン」のボーカリスト、故フレディ・マーキュリーが何度も足を運んだという。
累計観客動員数が390万人を越え、興行収入は53億円を突破(2018年12月18日現在)。フレディの送った壮絶な人生が描かれた映画『ボヘミアン・ラプソディ』の勢いが止まらない。当時を知る世代もそうでない若者も、困難にぶち当たっても決して自分を曲げず、信念を貫き通すフレディの激しい生き様に酔いしれている。しかし、増田さんは、そんなフレディ像に違和感を覚えるという。
「映画ではわがままな面が目立つけど、実際はとても紳士な人だったわ。私、15才から欠かさず日記をつけているの。彼とのことは昨日のように覚えてる」
フレディが初めて『九州男』に来たのは1985年5月。伝説の音楽イベント『ライヴ・エイド』直前のことだった。
「第一印象はおとなしい普通の人っていう感じだったの。平日で店は落ち着いていたから、じっくり話ができて…。私、彼のこと知らないから“バンドマンなら歌いなさいよ”って言ったら“ごめん”って。それで帰る時に“ステージで待ってるよ”って、日本での公演チケットをくれたのよ」
3日後、国立代々木競技場(東京)で行われたライブに足を運んだ増田さん。最前列の特別席で、バーにいる時とは違ったフレディの迫力に圧倒されたそうだ。楽屋へ挨拶に行くと、フレディは気さくに迎え入れ、一緒にお寿司をつまんだという。
その日のライブ終了後、フレディはまたしても『九州男』を訪れた。
「深夜の1時頃よ。その日は2人で一緒に大はしゃぎ。お店をハシゴしちゃって、疲れていたはずなのに、一緒に声を張り上げてアカペラで歌ったのよね」
増田さんは、少し顔を赤らめて“夜の続き”を語る──帰ろうと店を出た増田さんの前には、一台のリムジンが。フレディは増田さんを車内に誘った。
「ハイテンションの彼は、途中、“ヘイ、バンザイしろ!”と言ってきて。2人して窓から体を出して、バンザイしたままホテルに入ったの(笑い)。そのままホテルで飲んで部屋で夜を明かして…。朝、疲れ果てて寝ていたフレディを起こさないように、静かに帰ったわ」
その後も、フレディは来日するたび、増田さんの店を訪れたという。
「実際の彼は、すごく優しくて物静かで、でも、私たちを楽しませようとしてくれた。当時私は、クイーンの曲を1曲も知らなかったけど、“誰も自分のことを知らない世界に行きたい”って言っていた彼は、特別扱いをしないこの『九州男』を、かえって気に入ってくれたのかもしれないわね」
映画では語られない一場面がそこにはあった。
※女性セブン2019年1月3・10日号