平成は大きな天災に次々と見舞われた時代でもあった。なかでも、2011年3月11日に起きた東日本大震災は、その規模と大きさ、関連して引き起こされた事故を含めて、日本にもたらした影響が計り知れない。平成の記憶として残すべき一冊の書として、作家の嵐山光三郎氏が選んだのは、防災史の本だった。
●『天災から日本史を読みなおす』/磯田道史著/中公新書/760円+税
二〇一一年の東日本大震災は日本列島にもたらされた平成最大の事件であった。地震と津波・福島第一原発事故によるパニックで、私は精神の平衡感覚を喪い、宮城県女川町や福島県相馬市をうろつき、無力感にうちのめされた。ふたたび敗戦の荒野に立って、言いようのない無常感のなかにいた。
磯田道史著『天災から日本史を読みなおす』(中公新書)は、防災史の本である。天災を勘定に入れた日本史が編成されなければならない。東日本大震災のあと、理系の研究者による、地震や津波を解説する本が数多く出たが、この一冊は人間を主人公とする防災の必読書である。
一七〇七年の富士山噴火は、震動は四日間、火山灰は一二日間。暗くなるほどの火山灰が降った。その実態を調べるため、数年間を浜松で生活し、「南海トラフはいつ動くのか」を、埋もれた古文献で調べた。東日本大震災後に課せられた宿題である。過去のデータから予測すると、つぎの南海トラフ地震まであと二〇年ちょっとである。これを理系の研究者のシステムとすりあわせることにより精密な対応策ができる。