平成を日本文学という基準で振り返ったとき、そこにはどんな歴史があるのか。評論家の坪内祐三氏は、平成の日本文学を振り返ることができる一冊を挙げ、日本文学が決定的に変わった瞬間について語った。
●『未完の平成文学史 文芸記者が見た文壇30年』/浦田憲治著/早川書房/2800円+税
私の頭の中で明治文学史は描ける。大正文学史も描ける。昭和文学史も……と言いたい所だが、描けるのは昭和五十五年(一九八〇年)まで。
それ以降となると混沌としてくる。
まして平成文学史は。
平成のすべてを私は同時代体験し、文筆業を始めて、まして最初の頃の肩書きは「文芸評論家」であったりしたのに。平成文学史をうまくつかみきれない。
一九八〇年以降とはポストモダンの時代だ。つまり価値相対化の時代。基本となる軸が消失してしまった時代。
平成がもう終わりつつあるのに、平成文学史は見当らない。
いや、実は一冊だけあるのだ。
浦田憲治の『未完の平成文学史』(早川書房)だ。「未完の」とあるのはこの本が刊行されたのが平成二十七年(二〇一五年)だからだが、この三年間で新しい文学の流れは生まれていない。