東日本大震災による地震と津波の影響により、福島第一原子力発電所事故が起きた。日本人は、原発事故から何を考え、学ぶべきなのか。ドイツ文学者でエッセイストの池内紀氏が選んだ「平成」を代表する一冊の書物は、日本における原発の可能性について記した本だった。
●『福島原発事故をめぐって』/山本義隆著/みすず書房/1000円+税
二〇一一年三月。いいようのない事件が起きた。福島原発の事故である。政府発表があいつぎ、マスコミが騒ぎ立てた。ドッと「専門家」があらわれて、ありとあらゆる意見を述べた。
騒ぎが一応のしずまりを見たころ、ちいさな本があらわれた。本文は註を含めてちょうど一〇〇ページ。まっ白な紙に文字があるだけ。写真類は一切なし。
著者は東大理学部の大学院のとき、医学部に端を発した東大闘争に遭遇。リーダーに推され、務めを果たしたばかりに研究者の道を閉ざされた。以後は予備校講師。かたわら科学史の大著を書き継いできた。
大事故のあと、続々と「関連書」が世にあらわれた。それらがたいてい触れなかった、原発開発の深層にあたるもの。「日本の外交力の裏づけとして、核武装選択の可能性」があったということ。原発を稼動させることで原爆の材料となるプルトニウムを作り続け、ウラン濃縮技術をそなえ、さらに人工衛星の打ち上げに成功。原発が産業経済のワクをこえて、外交、安全保障政策の中に組み込まれていたからこそ、地震大国の特性に目をつむり、五十数基も作り続けたのではなかったか。