架空請求ハガキによる特殊詐欺は、手口が広く知られていることもあり、騙される人が少なくなったもののひとつだろう。ところが、手段の簡単さも手伝って現在も続いており、最近ではそこに、別の目的も加わって、消滅する気配がない特殊詐欺となりつつある。「コールセンター」勤務経験がある男性などが語る、架空請求ハガキが持つ複数の目的について、ライターの森鷹久氏がレポートする。
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「いや…アホくさくなったというか…。こういうことはやっぱやっちゃダメだなって…」
今回筆者のインタビューに応じてくれたのは、つい最近まで、とある「詐欺」事案に加担していたという、神奈川県在住の男性・A氏(30代)。不動産投資業者への就職が決まり、昨年の春に上京したのはよかったが、あまりの激務に半年で体調を崩すと、日雇いの建設作業員などをやって何とか食いつないできた。実は実家には妻と子供を残してきており、月に数万の「仕送り」を約束していた。日雇いでは十分な給与が得られないということで、ネットで見つけた「シゴト」に応募したのが始まりだったという。
「架空債務請求ハガキ、テレビや新聞でやっているから知ってますよね? あれの電話番みたいなことをやっていたわけです。時給は1000円ほど。ネットの掲示板に“高給”やら“日払い”と書いてあったのですが、実際は給与は普通…。それで詐欺やんなきゃって。二~三十代の人が何人かいましたが、私語は厳禁だったので素性は知りません。みんな、同じようにネットの求人を見てやってきたようではありましたが…」(A氏)
話題の事案についてあまりにもあっけらかんと話すA氏に驚いたが、A氏にとってはなんとなくやっていた「シゴト」以上でも以下でもない、そんな口調である。
「電話がかかってくると管理センターです、とか、訴訟センターとか言って受けるんです…。日によって受け方が違うんですよね。相談センターって言ってた時もあったかな? それでまず、名前と住所を言ってもらう。パソコンに住所を打ち込み、該当がなければ、それ以上電話をする必要はない、といわれていました。該当があれば、担当者に変わらなければいけないんです。最初は何をやっているのかよくわかりませんでしたが、途中から変なことやってるなって気が付いて…」(A氏)
ちょうどそのころ、テレビで見かけたのが「架空債務請求ハガキ」の報道だった。記者らしき人が電話をかけている先は、まさに自分がいる場所だったのである。
「(受話器から)電話のコール音とか、ガヤガヤって音がしてたんですよね。僕がいた場所でも“コールセンター”っぽい音をラジカセからずっと流していたんです。あ…同じだって」(A氏)
A氏は、自身が詐欺の片棒を担いでいると気が付き辞めようと決意。しかし「室長」を名乗る上司は、A氏の退職を許さなかった。辞めるなら代わりを連れてこい、と迫ったり、損害金を要求してきたのである。身の危険を感じたA氏はそのまま仕事を“バックれ”たが、その後、仕事先から連絡が来ることは一度もなかったという。