大阪にある自宅でのインタビューの途中、山根明・元日本ボクシング連盟“終身”会長の携帯電話が鳴った。着信音はマフィアの抗争を描いた映画「ゴッドファーザー」のテーマ曲。アマチュアボクシング界のドンとして君臨し、黒い交際を理由に会長職を辞した男にマッチした曲とはいえ、疑惑が疑惑なだけに何かの冗談だろうかと驚かされる。
スキャンダル禍に見舞われた2018年のスポーツ界にあって、異彩を放っていたのが山根氏である。「日本ボクシングを再興する会」の告発によって、助成金の不正分配や地方組織への過剰な接待要求、山根氏の出身母体である奈良の選手に有利な“奈良判定”など、12項目にわたる疑惑が持ち上がったのは7月のことだった。
大騒動に発展すると、山根氏は連日、ワイドショーに出演し、元暴力団組長から脅されていると告白したり、突然、家族の名前を一人ひとり挙げたりするなど、生放送もおかまいなし。番組関係者とお茶の間を凍り付かせた。
山根氏のメディアジャックは、完全に裏目に出たといっていいだろう。ついに8月8日には、暴力団関係者との黒い交際を認め、会長辞任にいたる。
あれから約5か月。「日本ボクシングを再興する会」の発起人で、日本ボクシング連盟の内田貞信・現会長らを山根氏は「海賊」と表現し、疑惑の一部を除き、改めて身の潔白を主張するのだった。
「人のもんを略奪するんは、海賊や! ええですか、(日本ボクシングを再興する会によって)告発された12項目のうち、わずか1項目(アスリート助成金の不正分配)しか、第三者委員会は私の不正を認めていないんですよ。それ以外はすべてやらせ、作り話や。私は連盟を私物化しようとしたことはありません」
ただ、話の筋は転々とする。山根氏は「これは初めて口にすること」として、自身のボクシング歴について語り始めるのだった。
「わしをボクシング素人いう人間がおるが、ボクシングもかじったことのない人間が何を言うとんのや! プロで5戦しておる。思い出される最高の舞台は、満16歳の時に出場した大阪府立体育館での試合。大滝三郎と、レオ・エスピノサの東洋太平洋タイトルマッチの前座の試合でした。1万人が見守る中で、リングサイドには力道山がいてね。わしはそれだけで舞い上がってしまった」
ちなみにその日の試合の勝敗は──。