W杯ベスト16で盛り上がった2018年の日本サッカー。直前の監督交代で囁かれた不安を文字通り一蹴した西野朗監督の手腕を日本中が称賛した。一方、日夜サッカー漬けの毎日を送るJリーグの熱烈サポーターの間でもっとも印象的だった指揮官として名前が挙がるのが、浦和レッズを率いて天皇杯優勝を成し遂げたオズワルド・オリヴェイラ監督である。Jリーグ発足時からレッズをウォッチするライターの麻野篤氏が指摘する。
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昨シーズンはACLチャンピオンとなり、アジアナンバーワンのクラブに返り咲いた浦和レッズ。しかし、今期は序盤から不調が続き、シーズン中に2度も監督が交代するなど安定感を欠いた戦いぶりだった。結局リーグ戦は5位となって、来期のACL出場圏内からも脱落してしまった。
ところが、そんな下降気味のチーム状況で迎えたシーズン終盤の天皇杯では、しぶとい勝負強さを発揮して優勝。ぎりぎりの瀬戸際で、見事にACL行き最後の切符をたぐり寄せた。
立役者となったのはブラジル人指揮官のオズワルド・オリヴェイラ監督。2007年に鹿島アントラーズの監督として日本の地を踏むと、チームに前人未踏のJリーグ三連覇を含む数々のタイトルをもたらした。大胆な選手起用やチーム全体を見渡すマネージメント力にたけ、その人心掌握術は「オズの魔法使い」とも呼ばれる。
7年ぶりのJリーグ監督となった今季も、その魔法はいかんなく発揮された。
サッカー選手の経験がないというオリヴェイラは、大学院まで運動科学や生理学を学び、フィジカルコーチとしてサッカー界に入ったという異色の経歴だ。自らの著書では、「私は哲学を持たない。持った瞬間にその哲学に縛られてしまうから」と、指導者としての臨機応変な対応力の重要性を説いている。
国内随一のサポーターを抱えるといわれる浦和では、サポーター内にも様々な意見が存在する。それゆえ、チームの成績が上がらなければ、サポーターの声が不況和音となって響き出し、クラブが厳しい状況に追い込まれていくという歴史を繰り返してきた。サポーターが試合後のスタジアムに居座ったり、選手の乗ったチームバスを囲むなどの抗議行動がマスコミを賑わすことも珍しくない。
熱狂的ともいえるサポーターのチーム愛の強さが、時として諸刃の剣となる可能性もはらんでいるのだ。
ライバルチームである鹿島で5年間監督をしていたオリヴェイラも、もちろんそれを把握していた。今年の就任会見(4月22日)ではこう語っている。
「浦和は、サッカーが呼吸する街だと思っています。100年以上のサッカーの歴史がここにはあります。ですので、浦和でいつか仕事をしたいという気持ちがありました。浦和のサポーターの応援の仕方は、他のチームとまた違ったものがあります。そして、そういったチームの監督になりましたけれど、ピッチ上での選手のがんばりとサポーターの応援が一体となれば必ず成功につながると思います」
このようにサポーターへの関心を表したオリヴェイラだが、実はシーズンを通しては頻繁にサポーターへメッセージを送ったりはしていない。試合後の会見を見ても、「ファン・サポーターの存在が、我々にとってのアドバンテージでした」(19節・川崎戦)とか「(私の)サポーターに対する情熱は非常に高いものです」(30節・鹿島戦)といった、どちらかといえば間接的な表現が多かった。
そんなオリヴェイラが、シーズン最終盤になって突如動いた。