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「改元」で読む日本史 元号はどうやって決められてきたか

1990年の「即位の礼」は平安絵巻さながら

 春には平成に代わる「新元号」が発表される。飛鳥時代の「大化」に始まり、日本の歴史は実に247の元号と共に歩んできた。元号は、中国との向き合い方と浅からぬ関係がある。朝貢外交の末に中国をあがめ、“臣下”となれば自ら元号を定めることができなくなり、中国のそれを用いることになる。では日本はどうだったのか。『東大教授が教える やばい日本史』『日本史のツボ』などベストセラーを連発する東京大学史料編纂所教授の本郷和人氏が、「改元」をキーワードに日本史を深く読み解く。

 * * *
 ぼくは聖徳太子の遣隋使は意地の表明であり、ギリギリのやせ我慢だったと思っている。当時の日本と「隋」王朝とでは国力に雲泥の差がある。賢明な聖徳太子がそのことを認識していないはずはない。だから、「日いづるところの天子、日没するところの天子に書をいたす、つつがなきや」という国書の文章は、日本の大王と「隋」の皇帝を同格のものとした、きわめて危険な冒険であった。「隋」の皇帝は激しく機嫌を損ねるかもしれない(実際に激怒したらしい)。でも我が国が自立する国家であるという一線は譲ることができない。それが太子の考えだったのだと思う。

 実際に現地に赴く使者の小野妹子は、無礼である、と殺されることも覚悟していたのではないだろうか。幸いにして妹子は返書を得て帰国したが、日本の無礼を厳しく糾弾する内容だったと伝わる返書は、途中で失われたとして朝廷には提出されなかった。

 そんな緊張に晒されても、日本は中華帝国の家来となる道を選択しなかった。天武・持統天皇の頃には神話世界を天照大神を中心として整理し、神の子孫が天皇であると位置づけた(だから持統天皇が天照大神のモデルだといわれる)。皇帝と同格の「天皇」という称号を用いたのもこの頃からであり、「日本」を国号と定めた。

 そして、わが国は独自の元号を用いるようになった。元号は「大化」から始まるが、その後しばらくは定められたり空白期があったりで、不安定であった。持統上皇が補佐する文武天皇5年(701年)に「大宝」が元号として掲げられ、それからは現在の平成まで、切れ目なく続いている。言うまでもないが、天皇の代替わりのときにのみ改元されるようになったのは明治になってからで、それまでは大きな事件(政争、戦乱、天変地異、飢饉など。もちろん天皇の代替わりもこれに該当する)が起きると、人心一新を図るために、改元が行なわれた。

 この意味で、元号とは、日本が自立する国家である証しであった。太平洋戦争の敗戦後、天皇主権が否定されると、元号の廃止も検討された(例えば石橋湛山は否定論者であった)。昭和25年(1950年)2月には、参議院で元号を存続させるや否や、という議論がもちあがった。

 このとき高名な古代史研究者(東京大学教授、1951~62年まで史料編纂所所長)の坂本太郎は「元号は独立国の象徴である」と論陣を張った。坂本の説には、歴史事実から見て、確かに一理があったのである。

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