2025年の大阪万博決定に際し、各局のワイドショーは道頓堀の商店主や通行人にマイクを向けていた。「景気エエ話やんか。外国人がガンガンお金落っことしてくれるんやろ!」「空き地の夢洲にそんなもん建てて終わった後どうすんねん。全部わてらの税金やろ。夢なんかあらへんわ!」がめつい店主に、押しの強い“おばはん”が次々と現われたが、そんな紋切り型の大阪像は“作りもん”と断じる識者がいる。11月に『大阪的』(幻冬舎新書)を上梓した国際日本文化研究センター教授の井上章一氏が、“大阪のおばはん”はいつ、どのようにして生み出されたのかについて解説する。
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万博誘致でまた間違った大阪像が拡大していく。メディアによる一種の風評被害だと思っております。
当たり前の話ですが、大阪もいわゆる“大阪的”ではない人がたくさん住んでおられる。でも、そこは取り上げられません。「大阪人は、がめつくておもろくなければならん」という決めつけがあるわけです。実際、大阪人と言われて、物静かで思慮深い人間を想像する人はいないでしょう。
谷崎潤一郎が1932年に記した『私の見た大阪及び大阪人』という随筆があります。そこで谷崎は「関西の婦人は凡べて言葉数少なく、婉曲に心持ちを表現する。それが東京に比べて品よくも聞こえ、非常に色気がある」と綴っている。現代の大阪のおばちゃんイメージとはかけ離れた姿です。