今年からいよいよ「働き方改革関連法」が施行され、各企業で長時間労働の是正(残業の上限設定)など対策が求められる。だが、パワハラに近い露骨な残業の強要は減っても、「ソフトな心理的プレッシャーはなくならない」とその実効性を危惧するのは、組織論に詳しい同志社大学政策学部教授の太田肇氏だ。
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以前、こんな話を耳にした。ある若手社員が自分の健康増進のため朝6時に出勤し、会社周辺の掃除をすることにした。続けているうちに会社幹部の目にとまり、たいそう褒められたうえ、模範的な社員として社内表彰も受けた。
彼にとって、自分のために始めたのに表彰までされると、やめるわけにはいかず、だんだんと続けることが負担になってきた。さらに、ほかの社員からは、彼を見習うように会社から圧力がかかっていると嫌みをいわれ、やがて彼は強いストレスを訴えるようになったそうだ。
かりに日本社会特有の同調圧力を逆手に取っているとしたら、会社側の責任も小さくない。
「ブラック企業」といえば、かつては恫喝やパワハラまがいのスパルタ式管理を行ったり、残業を強要したりするような荒っぽい手法が目だった。だが、毎年「ブラック企業大賞」まで発表されるようになった今は、社員の告発が相次ぎ、ネットでの悪評にもさらされるようになり、そうしたあからさまな行為は減ってきた。
その一方で、よりソフトな形で過重労働へプレッシャーをかける“隠れブラック企業”がたくさん存在している。しかも冒頭の例のように、表向きは社員の自発的ながんばりという形をとるだけに告発が難しく、いっそう始末が悪い。