日本のがん治療といえば「手術で治す」イメージが強いが、医療法人社団進興会理事長の森山紀之医師によれば、海外では「手術はしない方がいい」とされているがんも多いという。
「日本では根治思想が根付いているため、医師がすぐに手術をしたがる傾向があります。放射線治療が適していると思われるがんでも、根こそぎ取り除く手術を何時間もかけて行う病院は少なくありません。
たとえば胃がんの場合、“進行すればリンパ節に飛ぶ可能性がある”と言ってリンパ節も一緒に切除しますが、海外ではリンパ節は取りません。取った方が本当にいいのかどうかというエビデンス(効果があることを示す証拠や臨床結果)がないからです」
食道がんも日本では手術がメイン。食道を摘出した後、胃を筒状にして引っ張り上げ、食道を再建するという難しい手術だ。
「その手術は体への負担が大きいうえ、食べ物をうまくのみ込めず、手術後に肺炎を起こして亡くなる人が少なくない。そのためドイツやフランスでは手術ではなく、放射線治療と抗がん剤による化学療法を併用するのが一般的です。
また、男性に多い前立腺がんも、摘出手術を行うのは日本くらいのもの。前立腺を取ると2人に1人が尿漏れを起こし、日常生活でおむつが必須になるからです。その点、放射線治療であれば、手術と違って副作用はほとんどなく、しかも手術と同等の確率でがんを消滅できることが明らかになっています。これらを受けて、日本でも放射線化学療法を行う施設が増えてきています」(森山さん)
女性に多い乳がんも、日本では切除手術が当たり前だが、女性にとっては乳房を失うという精神的なショックも大きい。さらに、化学療法の副作用は生活の質を下げることがある。海外では初期の乳がんなら最近では、手術後の化学療法さえ行わないケースも増えているという。
「アメリカでは、『オンコタイプDX』と呼ばれる遺伝子検査によって、術後の再発リスクを検証し、化学療法の必要性を調べる方法が主流になりつつあります。乳がん患者の約半数は、『ホルモン受容体陽性』か『HER2陰性で腋窩リンパ節転移陰性』という2つのタイプに分けられます。
このタイプの乳がんでは、“遺伝子検査で約7割が化学療法は必要でない”という報告もあります。今後、遺伝子検査を取り入れて、不必要な化学療法はやらないといった『個別化医療』がますます進むでしょう。ただ、高価なこともあり、日本ではあまり浸透していません」(米国在住の大西睦子医師)