マーケティング用語でよく言われるのが「イノベーター理論」だ。新しもの好きの「イノベーター」、流行に敏感な「アーリーアダプター」、比較的慎重な「アーリーマジョリティ」、人を見てから同じ選択をする「レイトマジョリティ」、流行に関心の薄い「ラガード」と、5段階に消費性向を分類したもので、ビール定義変更に対応した商品やクラフトビールは、まだ、アーリーアダプターの域を出ていないのかもしれない。
さらに言えば、「グランマイルド」は別として、定義変更対応商品やクラフトビールは総じて価格が高めだ。節約志向が高まる中、ハレの日でもなければ、スーパーで消費者がクラフトの缶にはなかなか手を伸ばしにくい。どちらかといえば飲食店、それも居酒屋ではなく、ダイニングバーのようなお洒落な店でくつろぎながらゆっくり飲むイメージが強い商品だ。
また、サントリービールには「ザ・プレミアム・モルツ」、サッポロビールには「ヱビス」と、すでに高価格帯の定番ビールがあり、ある意味クラフトの領域。この点がアサヒやキリンとは違う点で、サントリーやサッポロも定義変更対応商品は出してはいるものの、それほど積極的には見えない。
サッポロの髙島英也社長は、業界全体に定義変更対応商品が伸び悩んだ理由をこう分析する。
「一言で言えば、日本人にはまだ、馴染まないんでしょうね。ベルギーあたりですと、たとえばビールに果物を入れる、ジャムを入れる、あるいはシロップを入れて飲むとか、そういう飲み方が長く文化として定着している。そういう文化が日常的に根付いてこそ、消費としてもある程度ボリュームが増えるわけです。
柑橘系で低価格のサワーやチューハイ系商品が数多く出ている日本で、ビールが定義変更になったからといって、いろんな副原料を入れて提案しても難しいということが、いまわかってきました。もちろん、当社も今後もビール商品の多様化は進めますが、欧米にはクラフトが馴染んできた、長い歴史と文化がある。そういう文化を、日本でも少しずつ作っていく以外ないと思います」
ただ、ビールの苦みを嫌う若年層もクラフトの多様性ある商品は飲食店中心に支持が広がりつつあり、ビール党の多いシニア世代以上はビール消費の絶対量そのものが減るから、価格が高くてもたまに飲む選択肢には挙がってくる。
2、3年後はまだ無理でも、2026年にはビール類の酒税が一本化される(ビール税は値下げ、発泡酒や新ジャンルの税は値上げ)予定でビールの優位性が高まると目されることもあり、それ以降は “フレーバービール”が日本でも根付いていくかもしれない。