映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、女優・佐久間良子が、かつて夫婦だった平幹二朗と競演した舞台『鹿鳴館』について、そこで役者デビューした息子の平岳大について語った言葉をお届けする。
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二〇〇二年、佐久間良子は三島由紀夫原作の舞台『鹿鳴館』でヒロインの影山朝子役を演じた。この時に夫の影山伯爵役を演じたのが平幹二朗。佐久間と平とはかつて実生活でも夫婦の間柄にあった。
「『鹿鳴館』の影山朝子は先代の水谷八重子さんや杉村春子先生が演じてこられた役ですから、女優としてはぜひ演じてみたい作品でした。それでお話をいただいた時に『相手役はどなたがいいですか』と聞かれまして、『平さん』と答えました。
影山伯爵は大役ですから、役者として心からお願いしたかったんですよね。『もうこの人だったら』ということで。別れてから十四、五年経って、役者として平さんに挑戦してみたいと思ったんです。
あの朝子という役自体が伯爵の手のひらの上で動かされているようなところがあるのですが、実際に平さんとやっていると本当にそんな気がしてきました。それだけの凄い役作りをされていました。もうご自身を丸ごと役作りなさる方ですから。凄く大きな役者さんだと改めて思いましたね」
この時の『鹿鳴館』では、佐久間と平の間の実子・平岳大も役者としてデビューしている。
「あの時は『息子役は誰ですか?』とプロデューサーに聞いても『まだ分かりません』って言われていたんですよね。本当はもう決まっていたのに、私には言わなかったの。何か言われると思ったみたいです。でも、平さんは知っていたんじゃないですかね。
それで何日か後に『この役は岳大だ』と言われまして。ビックリもなにも、もう倒れんばかりになりました。でも、よくやったと思いますね。平さんも特訓なさったんでしょうけど。
普通、新人であの役をやるのは難しいですし、三島さんの書かれた美しい言葉ってなかなかハッキリとしたセリフで言いにくいのですが。それを見事に演じてからは、今日に至るまで私は何も言いません」