作家の甘糟りり子氏が、「ハラスメント社会」について考察するシリーズ。今回は、波紋を呼ぶ松本人志の発言に言及。
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本当に驚いたし、あきれた。世の中のたいていの人と同じように。例の松本人志の「お得意の身体を使って~」という発言についてである。
ツイッターで知ったので、文字通り目を疑った。SNS、特にツイッターは文脈を無視して一文だけを切り取り、悪意を持って拡散されることが多いので、検索して動画を確認した。無責任に揚げ足を取られているわけではなかった。前後も含めて、何度も見た。あまりにも信じがたい言動だったから。
アイドルグループの女の子がファンの男性から暴行を受け、それが本人の告発によって、一か月もたってから明るみに出た。それについて、グループのリーダー的存在である別の女の子が、松本人志が司会の番組に出演して、興行を運営する側を批判した。きっと勇気が要る行動だっただろう。コメンテーターの社会学者が「それならあなたが(運営の)トップに立ったらいいんじゃないですか」といい、一同がそれに賛同する。なるほど建設的な考えである。彼女は、運営とメンバーの間に立つ人間が必要だけれども、トップで束ねるのはそんなに簡単なことではない、というようなことを答えた。すると、松本人志は、「それは、お得意の身体を使ってなんかするとかさ」といったのだ。枕営業的な意であるのは明白だ。
この流れのこの時期に、この話題で、この人に対して、そういうことをいうのか。彼も新聞を読んだりニュース番組を見ていないわけでもないだろうに。もしかしたら、自分は別の世界にいるとでも思っているのだろうか。疑問ばかりが頭に浮かぶ。「お得の身体を~」がまさかおもしろいジョークのつもりだったのか。ジョークであっても許されるものではないけれど。
今、世の中の意識が変わりつつある。2017年10月、ハリウッドの権力者がセクハラで告発されたことがきっかけで、世界中に大きな波が起こった。日本のそれは残念ながらそれほど大きなものとはいえないけれど、でも、起こった。セクシュアルハラスメントは、気にしないふりをして軽くいなすことでも、唇を噛み締めて耐えることでもなくなった。きちんと異議を申し立てるべき案件になった。
セクハラだけではなく、パワーハラスメントや人種差別など、あらゆる立場の人の人権が尊重される時代なのだ。いや、時代になりつつある、ぐらいかもしれない。どちらにせよ、弱者の声が前よりは世の中に届くようになった(なりつつある、か)。