そんな彼の周りには面白いように女が寄ってきた。暇を持て余した駐在員妻や野心旺盛な外資系社員など、女たちは一時の快楽を貪るように体を開き、執着心がないのはお互い様だった。
「いわゆる女好きな人って、ガツガツしてないんですよ。特別な美男子じゃなくても女の人が自然に寄って来て、深追いしないからこそ次の相手が日替わりで現れる。モデルはいたりいなかったりですが、私が見聞きしたお金持ちの話を元にはしているので、わかる人にはわかるかもしれません」
一方、明治以来の製糖会社の三男で、現在子会社の社長を務める田口は、妻を膵臓癌で亡くしたばかり。東大卒業後、スタンフォード留学中に久坂と出会い、当時同棲中だったブルガリア人留学生〈モニカ〉との結婚を実家に猛反対されて母方の遠縁の娘と見合いで結ばれた彼は、子供はないなりに平穏に暮らしてきた。
が、その妻が突然病に倒れ、莫大な遺産と、〈私はずっと幸せではなかった〉という言葉を残して逝ってしまう。彼を溺愛する母親は再婚を勧めたが、なかなかその気になれない中、久坂や名門割烹の御曹司〈山崎〉らと訪れた京の花街で、40代の芸妓〈豆孝〉と出会うのだ。
◆基本的に作家は両性具有です
年のわりに初心な田口と久坂の対比、また山崎たち御曹司軍団の遊びっぷりや京都独特の諸々の作法には、常人には敷居が高いだけに驚かされることしきりだ。