諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師はイラクでの医療支援を続けるJIM-NET(日本イラク医療支援ネットワーク)代表でもある。2006年から冬季限定の“チョコ募金”を行っている。この募金は「イラクの小児がん医療支援」「シリア難民・イラク国内避難民支援」「福島の子どもたちを放射能から守る活動」に使われるが、チョコレートのパッケージには毎年、イラクの子供たちが描いた絵を使用している。2019年のテーマは「戦場のたんぽぽ」。チョコレート缶に描かれている「たんぽぽ」に込められた思いについて、鎌田氏が綴る。
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2018年のノーベル平和賞は、イラク人女性ナディア・ムラドさん(25歳)が、コンゴの産婦人科医デニ・ムクウェゲさん(63歳)とともに受賞した。ムラドさんは、過激派組織「イスラム国」(IS)に拉致され、性暴力を受けたことを公表。「戦争や紛争で、性的暴力を武器として使うことを終わらせる活動に努めてきた」ことが評価された。
「不正義や抑圧と闘うために団結しましょう。声を上げ、そして一緒に言いましょう。暴力にノー、平和にイエス、奴隷所有にノー、自由にイエス、人種差別にノー、平等とすべての人々の人権にイエス、と」
ノーベル賞授賞式での彼女のスピーチは、とても力強かった。
そのムラドさんが育ったのは、シンジャール山周辺の地域。この一帯に住むクルド人は、ヤジディ教を信仰している。ISは、イスラム教の教えを勝手に、そして過激に解釈し、ヤジディ教を迫害した。その理由の大きなものは、偶像崇拝を禁じるイスラム教に対して、ヤジディ教は偶像崇拝を認めている点だという。
ISによるシンジャール山周辺への迫害は、2014年ごろから激化した。5000人近いヤジディ教徒を連れ去ったという。女性は「奴隷市場」に出され、IS戦闘員に買われて「性奴隷」にされた。「商品」として転売されたり、交換されたりした女性も少なくない。男性はイスラム教への改宗を迫られ、従わないと殺された。ISの考えに洗脳し、戦闘員として育てられた子どももいる。彼らは紛争のなかで各地に散り散りになり、今も行方不明になっている人は3000人とも3500人ともいわれる。