病気で入院する子供のベッドで添い寝したり、時には、検査室や手術室まで付き添ったり…そういった役割を持ち、小児病院に常勤する犬がいることをご存じだろうか。
2010年に日本で初めて、静岡県立こども病院でその試みは始まった。その第1号となったのが、「ベイリー」だ。ベイリーは、現在11才。静岡から活動の場を神奈川県立こども医療センターに移した後、昨年10月、その任務を終え、惜しまれながら引退したが、これまでに、ベイリーが励ましてきた子供たちはのべ2万3000人を超えるという。
ベイリーは、オーストラリア生まれのゴールデンレトリーバーのオス。ハワイで、医療施設で働くための特別な訓練を受け、日本にやって来た。
当時、日本では、かつてない試みだったこともあり、衛生面など、院内に動物を入れることに抵抗を持つ人も多く、小児病院に受け入れられるまでの道のりには、数々の困難があったというが、実際に活動するベイリーの姿に、病院関係者、入院患者の親たち、そして誰よりも子供たちの心が動いていった。
ベイリーとそのハンドラー・森田優子さんに密着したノンフィクション『ベイリー、大好き セラピードッグと小児病院のこどもたち』(岩貞るみこ著 小学館)では、ベイリーの生い立ちから、小児病院に受け入られるまでの日々、入院する子供たちとの交流を、関係者への取材を元に写真と共に詳細に紹介している。
本書では、ベイリーを常勤にするよう院長に掛け合った少女、・マコさん、小児集中治療室でベイリーに会うことを心待ちにしていた2才のユヅキくんなど、ベイリーがやってくることで入院生活が一変した数々の子供たちのエピソードが掲載されている。
実際に、犬が“病院内を普通に歩いている”、“子供のベッドに寝ている”、“手術室に付いていく”…その様子、そして子供たちの笑顔を切り取った数々の写真を目の当たりにし、犬がもたらす様々な効果の大きさに気付かされることだろう。
1月27日には、『NHKスペシャル』で「ベイリーとゆいちゃん」と題し、重い病と決別するために、大手術を受ける少女・ゆいちゃん(10才)とベイリーが心を通わせながら、様々な困難を乗り越えていく日々が紹介され、なぜ、このように「犬と人間が、互いに愛情を感じ、心を癒やし合う」かの理由を最新科学で解き明かす。
現在は、ベイリーに続き「ヨギ」(ゴールデンレトリーバー・オス)、「アニー」(ゴールデンレトリーバー・メス)の2頭が、それぞれ静岡と神奈川の病院にて活動中だ。彼らを病院に派遣している特定非営利活動法人シャイン・オン!キッズは、今後も新たな犬の導入を検討しているという。
シャイン・オン!キッズは、日本で2才の息子を白血病で亡くしたアメリカ人夫妻が、設立した「タイラー基金」がその前進だ。小児がん、重い病気と闘う子供たちとその家族を励ますために「ファシリティドッグ(シャイオンキッズではセラピードッグをこの名称に定義している)」「ビーズ・オブ・カレッジ」などの提供を続けている。
ベイリーは、ボランティアとして今も病院に通う。
「ベイリーがいたから治療をがんばれた」「病院での思い出がつらい記憶にならなかったのは、ベイリーの存在があったから」「ベイリー、大好き」…子供たちからの声、手紙は、今もシャイン・オン!キッズに続々と届いているという。