就職活動が始まるこの時期、リクルートスーツを購入しに大手紳士服チェーンを訪れる就活生も多いだろう。かつてリクルートスーツの色といえば「紺(ネイビー)」が無難とされてきたが、どうやら近年は定番色も変わっているようだ。ファッションジャーナリストの南充浩氏がレポートする。
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私が25年ほど前に就職活動をしていたとき、リクルートスーツの定番色は「紺」だとされていました。就活ノウハウブックにも「紺が無難」と書かれていて、友人も軒並み紺のスーツを着用していました。
しかし、いつの間にかリクルートスーツの定番は「紺」から「黒」へ変わりました。これはリクルートスーツだけでなく、成人式用のスーツも同じで、私の息子たちが2~3年前に成人式用のスーツを選んだときも、青山、AOKI、はるやまなどの紳士服チェーンすべてで、「定番は黒で、リクルートスーツにも使える」との説明を受けました。
では、一体いつから定番色が変わったのでしょうか。販売員の人に尋ねてみると、「ちょっと定かではないですが、10~15年くらい前から黒のリクルートスーツが好まれ始めた」とのことでした。
ちょうど2000年代初頭から後半にかけて、就職氷河期と呼ばれたころからでしょうか。もし氷河期からだとすると、黒のスーツは喪服にも使えて一石二鳥ですので、厳しい経済状況に置かれた若者たちが“着回し”のために編み出した知恵といえるのかもしれません。
思い返せば、私が社会人になりたての1994年ごろは、まだ黒いビジネススーツ自体が一般の紳士服チェーン店や百貨店の平場のスーツ売り場には置かれていませんでした。
映画や刑事ドラマなどで二枚目俳優たちに着用されている黒いスーツに憧れ、青山とはるやまに探しに行った思い出もありますが、「黒いスーツをください」と店員にいっても、「略礼服でしょうか?」と逆に尋ねられる始末。しかも、両店とも同じ対応で驚かされました。
「いえいえ、冠婚葬祭に出席するのではなく、テレビや映画で見かけるような黒いモードなスーツが欲しいのです」と言うと、両店とも「あいにく、そういうスーツを当店は置いておりません」との答え。私は「黒スーツは普通のスーツ屋では売っていないのか」と衝撃を受けたことを今でも鮮明に覚えています。
そこで、DC(デザイナーズキャラクター)ブランド店をいくつか回ってみると、黒いスーツは目移りするほどたくさんありました。ただし、値段は青山やはるやまのスーツの2倍~4倍くらいしていました。