【書評】『軍艦「鳥海」航海記 平間兵曹長の日記 昭和16~17年』/平間源之助・著 平間洋一・編/イカロス出版/1750円+税
【評者】平山周吉(雑文家)
戦時下の日記は今までにたくさん出版されてきたが、この『軍艦「鳥海」航海記』は、後世の読者をも念頭に入れた、周到な編集がなされていて、ありがたい。
日記の主・平間源之助はノンキャリの海軍軍人である。水兵さん上がりの准士官で、海軍奉職十五年、横須賀の留守宅には愛する妻と二人の息子がいる。日米開戦直前の昭和十六年(一九四一)十一月十七日から丸一年間、当用日記に几帳面に書き込んだ日々の艦上生活は、戦争と日常が同じ比重で一人の日本男児の中で同居していたことを我々に伝えてくれる。
海軍はあくまで就職先にしか過ぎない。しかし仕事を愛し、戦闘が近づけば死を覚悟し、家族に後ろ髪を引かれ、といった思いを率直に記していて、庶民のナマな声を聞く思いがする。建て前抜きの自由な感想だからだ。
開戦前の航海上では、「月明の夜の当直、また何とも言われん無常をそそる」「ああ、思えば生物全部闘争の世界である。涙も出ない」。敵機の来襲を受け、さいわい被害がなかった時には、「今次戦争にて初めての爆撃を受く。あまり好感を持てるものじゃなし」。海軍中央で命令を発している連中らに対しては、「敵の飛行機はもちろん、敵を見たことなく、妻や子供とイチャイチャしてる幸運児もあり不公平だ」と、恨みの一言を堂々と書きつける。