天皇皇后両陛下がご訪問やお言葉を通して、深い関心を示してきた二つの地がある。一つは太平洋戦争唯一の地上戦の舞台となった沖縄。そしてもう一つが東日本大地震の災禍に見舞われた東北地方、なかでも原発事故に苦しむ福島に対してである。『天皇メッセージ』著者であるノンフィクション作家・矢部宏治氏は、原発災害についての今上天皇の姿勢に、強い信念を感じ取る。
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東日本大震災の発生から5日後の2011年3月16日、明仁天皇が直接国民へ語りかける励ましの言葉がテレビで放送されました。
一部のメディアはそれを第二次大戦の敗戦時に昭和天皇がラジオで語りかけたとき以来の「平成の玉音放送」だと報じました。その後、天皇皇后のおふたりは、7週連続で被災地を訪問し、その後もお見舞いの行脚をつづけられています。
「昨年は春には東日本大震災が起こり、夏から秋にかけては各地で大雨による災害が起こり、多くの人命が失われ、実に痛ましいことでした。また、原発事故によってもたらされた放射能汚染のために、これまで生活していた地域から離れて暮らさなければならない人々の無念の気持ちも深く察せられます」(平成24年(2012年)1月1日/新年の感想)
このメッセージは、当時の野田首相による「原発事故収束宣言」(2011年12月16日)から、わずか2週間後にのべられたものです。
「原子炉が冷温停止状態になったので、事故そのものは収束した」という野田首相の説明はまったくのデタラメだったのですが、大手メディアはそのことを批判しませんでした。
国家の中枢にあって、この原発事故収束宣言にしたがわず、問題がまだ終わっていないというメッセージを断固として発信したのは、ただひとり明仁天皇だけでした。それでもNHKなどは、明仁天皇が放射能汚染にふれた部分は飛ばして放送した。だから国民には伝わらなかったのです。