「地域特有の単語やアクセントなど、お国言葉は広く認識されていますが、漢字にも土地に根付いたものがあるんです」
と話すのは、早稲田大学社会科学総合学術院教授の笹原宏之さんだ。そんな独自性のある文字を『方言漢字』というそうだ。
「日本は島国で山や川が多く、山脈が日本列島を背骨のように貫いているので、峠や崖が多いのが特徴です。当然、昔は別の“くに”への移動は困難を極めたため、地域性が濃くなり、言葉の違いが激しくなった。漢字も風土や習俗に合わせて工夫を加え、必要によって変化しながら、新たな国字(和製漢字)や字体を獲得してきたのです」
そこで首都圏に見られる“方言漢字”を笹原さんに解説してもらう。
■茨城県
読み方→あくつ
低い土地を表し、高いところは塙(はなわ)。地名や名字に使われている。
■栃木県
読み方→かも
栃木市内には三毳山や三毳不動尊がある。
■群馬県
読み方→ぬで
前橋市の「〈ぬで〉島(ぬでしま)」という地名は、この土地に「白膠木」(ぬるで)の木が茂っていたことに由来。この膠と木が合わさって変化した。江戸時代は崩し字が公式書体であったため、写し間違えたり、つなげたりした過程で変化したと考えられる。
■埼玉県
読み方→がけ
崖の意味。八潮市にある地名。埼玉にはほかにも「岾」(読みは“はけ”)など、崖を表す字が複数ある。
■千葉県
読み方→そうさ
平安時代の辞書『和名抄』などに下総国匝瑳郡や匝瑳郷として書かれ、1954年までは村名として残っていた古代発祥の地名。2006年に八日市場市と匝瑳郡野栄町が合併して「匝瑳市」が誕生した。
■東京都
読み方→きぬた
『砧公園』や『砧スタジオ』などで耳にする機会の多い字だが、地名にしているのは東京都のみ。ちなみに砧とは、洗濯後の服を棒で叩いて柔らかくしたり、しわを伸ばしたりする道具。
■神奈川県
読み方→いたち
鎌倉時代の歴史書『吾妻鏡』には、「〈いたち〉河」という記載がある。一般の漢和辞典にはないが、中国の仏典に使われていた字。現在は「いたち川」や「鼬川」とも書かれる。
※女性セブン2019年2月14日号