大坂なおみは、厳しい生存競争を強いられるプロフェッショナルな個人競技の世界において、強くてかつ誰からも愛される稀有なタイプのアスリートだ。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。
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「この大会は本当にちょっとびっくりしました。でも、なんか勝ちました」
テニス全豪オープンで優勝した翌日、トロフィーを持って記者会見の場に立つ大坂なおみ選手はそう言いました。
「なんか勝ちました」
世界最高峰の4大大会で優勝し世界ランキング1位の選手がこの言い回し。まさしく大坂さんならでは、の「なおみワールド」です。
そう、「なんか」は彼女の特徴。「なんかありがとうございます」「なんか疲れた」「なんか難しかった」……「大坂なおみのなんか劇場」の面白さと奥深さに心打たれた人は、多かったのではないでしょう。
ご本人にとっては習慣的な言い回し、あるいはクセなのかもしれません。しかしその表現に、「なんか深い」ヒントも潜んでいそうです。言ってみれば、彼女のプレースタイルやメンタルのあり方までを表しているものが……。
「なんか」という言葉には、まずゆるさがあります。「勝ちました」「優勝しました」とストレートに語るよりも、ふわりと柔らかい印象を与えます。余韻も生まれます。いわばワンクッション。一瞬の間と距離、あるいは緩衝体のようなものかもしれません。
決勝戦の第2セット、もう少しで勝利に手が届きかけた時。クビドバ選手に猛追され、逆転されてセットを失ってしまった。一瞬いらついたかに見えた大坂選手でしたが、即座にトイレットブレイクをとり、次の第3セットは冷静にコートに入りそして優勝。
あのブレイクの時に何を考えていたのかという質問に、「世界で一番の選手と闘っているのだから、謙虚にならなければ、と思いました」と回答。
まさに、勝負の場の熱中から一歩引くことができている。俯瞰的な視点がある。コートの中で勝負に没入しているだけではなく、鳥のように高い場所から、いわば第三者となって自分自身を見つめる視線。
だから「クビドバという素晴らしい選手と対峙している自分」という客観性を取り戻し冷静になれたのではないでしょうか。
「なんか」の持つやわらかさ、距離感とも通じています。いわば一歩引いて、余白を保つことができるセンスとでも言えばよいのでしょうか。それが大坂選手をより強くしているのかもしれません。