東京都内の、ある大手食品スーパーの酒類売り場。缶ビール、缶チューハイ、ハイボール缶が並ぶ商品棚の最上部に、これでもかというほど広告宣伝の紙が貼られていた。内容は、2月5日に発売される「金麦〈ゴールド・ラガー〉」(サントリービール)の告知だ。
赤い缶パッケージの中央にゴールドの楕円で“金麦”の文字。一見すると、誰もが既視感を覚えるのではないか。そう、昨年3月に発売されて大ヒットした「本麒麟」(キリンビール)を彷彿とさせるのだ。「金麦〈ゴールド・ラガー〉」は、いわば打倒「本麒麟」の刺客である。
市場縮小が止まらないビール業界全体にとっても、第3のビール「本麒麟」のヒットは久々に明るい話題だった。当初の年間販売計画が510万ケース(1ケースは大瓶20本換算)なのに対し、昨年の結果は倍近くの940万ケース。1年間フルに寄与する今年は、さらに5割増しの1380万ケースを見込んでいる。
そもそも、なぜ「本麒麟」はそれほどまでに消費者に受け入れられたのか。今年年初の事業方針説明会の際、この点を問われたキリンビールの布施孝之社長は、
「当たったのは、いい商品ができたこともそうだが、会社の組織風土が昨年から大きく変わり、これが最大の理由だと考えている。とにかくお客様を徹底的に理解する、判断基準をお客様に置くというふうに変わってきた。すべてをお客様目線にと。その表れだ」としていた。
昨年年初の同じ方針説明会で、新商品となる「本麒麟」の説明の際、「新ジャンル(=第3のビール)では、ビールらしい味覚への期待値が高いのに、最も未充足だった」と語り、ドイツ産ホップを採用、アルコールも少し高めの6%、長期低温熟成で雑味を取り除き、味を引き締め、結果として力強いコクを実現している。
商品名の通り、キリンが本気で気合を入れた第3のビールというわけだが、2005年に発売し、第3のビールでトップブランドだった「のどごし」が低落傾向だったことも「本麒麟」を生んだ1要因だろう。