錦戸亮主演の月9ドラマ『トレース~科捜研の男~』(フジテレビ系)が好調だ。当初は老舗ドラマ『科捜研の女』(テレビ朝日系)に寄せたサブタイトルに批判的な声もあったが、いざ放送が始まってみると、視聴率は順調そのもの。その背景には思わぬ理由もあったようだ。コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
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『トレース~科捜研の男~』の視聴率は1話から順に12.3%、11.8%、9.6%、11.0%、10.0%。唯一1桁の9.6%に留まった3話は、同時間帯に放送されていた「サッカーAFCアジアカップ2019 日本vsサウジアラビア」(テレビ朝日系)の影響と思われるだけに順調そのものです。
これで月9ドラマは、昨夏の『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』、昨秋の『SUITS/スーツ』に続く3作連続で2桁視聴率となり、「月9復活」と報じるメディアも少なくありません。しかも『トレース』の平均視聴率10.9%(5話)は、『絶対零度』の同10.6%(10話)、『SUITS/スーツ』の10.8%(11話)を上回っています。
もちろん視聴率がすべてではなく、指標の1つに過ぎませんが、人気シリーズ作の続編である『絶対零度』と、大ヒット海外ドラマをリメイクした『SUITS/スーツ』を超えている以上、ここまでは成功と言えるのではないでしょうか。
成功の陰には、「『トレース』は“持っている”」と思わせる幸運があったのです。
◆本家『科捜研の女』がまさかの放送なし
好調の理由に関連しているのは、『科捜研の女』(テレビ朝日系)。1999年のスタートから昨秋まで18シリーズまで放送され、最初の1・2シリーズ以外すべて2桁視聴率を記録し続けている、連ドラ最高峰の作品です。
そこで気になるのは、『トレース~科捜研の男~』という今作のサブタイトル。原作漫画は、『トレース 科捜研法医研究員の追想』というタイトルであり、明らかに『科捜研の女』を意識した上で「科捜研の」というフレーズを“トレース”したことがわかります。
これは「『科捜研の女』のファンにも見てもらおう」という確信犯的な戦略。否定的な声があがることを覚悟で似たサブタイトルをつけて注目度を上げました。この戦略は、たとえば「50万部のベストセラー本が誕生したら、似た切り口の本が何冊か発売されて、いずれも10~30万部くらいは売れる」のと同じというビジネスの常とう手段です。
それでも、「後発の『トレース』が、本家『科捜研の女』に勝つのは難しいだろう」と言われていましたが、『トレース』が“持っている”と言うにふさわしい幸運が訪れました。通常なら『科捜研の女』は秋から年をまたいで春までの2クール放送なのですが、今回は昨年末で終了。つまり、本来いるはずだった強大なライバルがいなくなったのです。
それによって、「『科捜研の女』のファンが『トレース』を見やすい状況になる(ファンを一時的に奪うことが可能)」「『トレース』が『科捜研の女』と毎週のように比較され、批判される不安がない」など、いいこと尽くめ。
『科捜研の女』が今年に限って1~3月の放送を取りやめたのは、「番組20周年とテレビ朝日開局60周年を記念して、4月から1年間放送するから」であり、まさに棚から牡丹餅の幸運が訪れたのです。
◆1・2話放送時の批判が減った理由