1月中旬から2月上旬にかけて、小学6年生の教室には空席が目立つ。決して猛威を振るうインフルエンザだけが理由ではない。将来をかけた一大イベント「中学入試」に臨むためだ。
文部科学省の学校基本調査によれば、中学受験をする子供の数は増加傾向にあり、2018年度の受験者数は推定4万5000人に達したとされる。大手進学塾「市進学院」教務統括本部長の水野徹さんが言う。
「特に首都圏近郊や大阪など都市部では中学受験をする子供が年々増え続けており、少子化の中でも私立中・国立中に進む生徒の数は増加の一途です。都内では4人に1人が私立中に進学するというデータもあるほどです」
子供の数そのものは減っているものの、受験を希望する人数が増え続けている故に、競争は激化している。
そのうえ、最近は大人でも頭をひねってしまうような、工夫が凝らされた問題が姿を見せ始め、午前・午後と2回に分けてテストを行うなど入試スタイルも多用化。入試の最前線では、何が起きているのか。
◆知識の詰め込みはAIに任せればいい
中学受験の問題は、ここ数年で大きく様変わりした。象徴的な出来事が、2018年度に起きた「開成ショック」だった。
中学受験の最難関といわれる中高一貫の名門男子校である開成中学が「国語」の中で、ある会社が販売する弁当の売り上げを計上したグラフを掲載し、以下のような問題を出題したのだ。
《社長は、部長の報告のどの表現に、客観性に欠けたものを感じたのでしょうか。二つ探し出し、なるべく短い字数で書き抜きなさい》
グラフから読み取った情報をもとに、ビジネスマンをどう評価するかを問う、まるで就職試験のような内容の問題である。中学受験におけるトップ校がこうした、まったく新しいタイプの問題の出題に踏み切ったことは、受験生とその親、さらには教育関係者にも大きな衝撃を与えた。
中には「さすがに会社の利益について問うのは“大人の世界”に寄りすぎているのでは」という声すらあった。水野さんが言う。
「今年は昨年の開成のような新傾向の問題はそれほど見られませんでした。ただ、中学受験全体の傾向において、知識のみを問う問題が減り、思考力や表現力が問われる設問が増えていることは事実です」
なぜ中学入試に大きな変革が起きたのか。背景には2021年から始まる「大学入学共通テスト」の導入がある。
現在行われている「センター試験」は知識や技能が問われる問題が大半を占め、マークシート式で行われる。
しかし、新テストでは知識や技能に加えて、思考力や判断力、表現力が重視された試験になるという。新テストは複数の選択肢が正答となったり、「解答なし」という選択肢が導入されたりするほか、記述式の問題も登場する。新テストで問われる能力を総合すると知識や表現力、判断力など自分の持つ能力を問題解決のためにどう活用するか、つまり「活用力」に帰結する。