作品の良し悪しは、必ずしも予算では決まらない。そう実感できる瞬間はアートの醍醐味の一つだ。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が、深夜ドラマについて言及した。
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最近、日本国内でもそれらしき作品が見つかり、にわかに注目されている謎のアーティスト、バンクシー。イギリス出身らしいということ以外分かっていない覆面芸術家です。そう、「バンクシー」という名が世界に鳴り響いたのは、昨年10月のオークション現場でのことでした。
サザビーズの会場で1億5000万円で落札された絵画《風船と少女》。落札の槌が響いたその瞬間、額縁に仕込まれたシュレッダーが作動し、絵は人々の目前で無残にも裁断されていきました。
唖然としかいいようのないその光景。
「アートは、一部の富裕層が所有したり金融商品のように売買したりするものではない」というバンクシーのメッセージが浮き彫りに。と同時に「コンセプチュアルアート」の面白さも世界中に伝わっていきました。
一つのアート作品によって巻き起こされる反響・現象。それを事前に設計する「コンセプチュアル」な行為。バンクシーのアートは、描かれた絵よりも「コンセプト」こそが表現対象であり伝えたい対象なのでしょう。
さて。現代アートとは分野もスタイルも違いますが、「コンセプト」の面白さを追い求めるという意味で、深夜ドラマの中に個性的な作品が見てとれます。言ってみれば、物語の筋立てやストーリー展開の面白さ以上に、ドラマの「コンセプト」が際立ち、光を放っている個性的な作品が登場してきています。
その筆頭が『デザイナー 渋井直人の休日』(テレビ東京・木曜深夜1時)。
渋井直人(光石研)という52歳の独身デザイナーが繰り広げる日常風景。渋井は個人事務所を持って活躍しているデザイナー、いわば都会の成功者。しかしどこかミスマッチ感が。まずそれを象徴するのが、似合っているとは言いがたいダッフルコートとマフラー姿です。
浮いている。着こなせていない。光石さん演じる「オシャレな業界人」の「微妙なズレ感」が見事に結晶しています。
「かっこ付けオヤジの痛い日常」「チャラくないのに舞い上がってしまう滑稽さ」。都会生活に適応したかと見えつつも、どこかで右往左往しているチグハグ感こそ、このドラマの「コンセプト」なのでしょう。
光石さんのナレーションも内面の独白としてズレ感を伝えています。オヤジの小さな見栄とプライド。切なくて情けない。心のつぶやきが「あるある感」をぐっと高めていき、倒れても前を向く健気さは、ついつい応援したくなる。
そう、このドラマは「ささやかであっても、消せないズレ」がテーマでありコンセプト。それは多くの人のリアルであり、ペーソスが漂い、クスッと笑いを誘う要素。という意味で、まさにコンセプチュアルなドラマです。