警察の内部事情に詳しい人物、通称・ブラックテリア氏が、関係者の証言から得た警官の日常や刑事の捜査活動などにおける驚くべき真実を明かすシリーズ。今回は、刑事と公安の確執について掘り下げる。
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警察の隠語に“ハム”という言葉がある。ハムとは公安警察のことだ。公の字がカタカナのハとムから成るためそう呼ばれているのだが、その言葉にいいイメージはない。現役や元刑事に公安の話を聞こうとすると、皆「ハムね…」と表情を曇らせ、口を濁すからだ。刑事と公安は仲が悪いというのが通説だ。
「ハムは嫌いです」
公安にいたという元刑事も露骨に嫌な顔をした。「ハムのことは語りたくない」という彼だったが、嫌いと言い切る理由について聞くと、公安での経験を話してくれた。
それまで強行犯係の刑事だった彼は、「あんたみたいな人が必要なんだ」と請われ、嫌々ながら公安へ異動した。配属されたのは公安部外事課。折しも訪日外国人や不法入国する外国人が増加していた時期だった。
だが行けと言われたのは、都内某所にある立派なビルだ。
「入り口がわかんないんだよね。何にも表示が出てないからさ。仕方ないからビルに入って、呼び鈴を鳴らしたよ」
警視庁の警察官が全員、所轄の署や派出所、交番にいると思ったら大間違いだ。実は都内のあちこちに分室と呼ばれる場所がある。交通課などの分室は公になっているが、捜査拠点となっている分室は違う。ビル1棟やビルの数フロアを借り上げている。出入りしている警察官は私服のため、はた目にそれが警察の分室だとはわからない。筆者が知っている限りだが、ビルの案内板や郵便受けにそれらしき表示が出されていたことはない。
異動翌日、元刑事は主任に「面取りに行くぞ」と呼ばれた。
「作業に入るから面取りに行くぞって。公安では捜査のことを作業って言うんだよ。で、面取りに行くっていうわけ。『面取り?』と聞くと、顔を取りに行くんだって。でも行ってみて茫然、ほんとに顔を見ただけなんだよ。やつらはそうやって見ているだけなんだ。だからハムは大嫌いです」
そう言うと、苦々しそうに顔をゆがめ、元刑事は声のトーンを落とした。
「例えば火炎車だとか、ゴミ箱に時限装置をつけて爆発させるとかあるだろう。公安のやつらは対象者の近辺にカメラを全部つけて、すべて監視する。見ていて、時限装置をつける、火をつけるのを確認している。なのにそこですぐには押さえない。刑事だったらそこで押さえるが、やつらは見てて、そのままやらせる。やらせて追っかける。
途中でまかれても、その場所を中心に探れば、何らかの痕跡が出てくる。わずかでも先に進めればいい。時間がかかるが、それを繰り返せばどこかの組織にたどり着く。事件が起きて、犯行声明が出れば組織が絞れる。そこで組織を一網打尽にできる」
これが公安捜査のやり方だ。
「刑事ならそこで押さえるのが基本、現行犯逮捕だ。実行犯をとっ捕まえる。押さえて叩いて、次々と芋づる式に挙げて組織をあぶり出す。公安はなぜ、そこで犯罪をやらせるのか。未遂で終わらせればいいじゃないか。誰かが巻き込まれて死んだら、誰が責任を取るのか。やつらは組織を潰すためには多少の犠牲は云々と言う。ふざけるな!だ。嘘でも誇張でもない」