虎は群れを作らず、繁殖期以外は単独で行動する。中国では百獣の王は虎で、日本でも強さの象徴だ。かつて、ビジネスの成功者たちを“虎”と呼んだ番組があった。2000年代前半に放送された『¥マネーの虎』(日本テレビ)の虎たちが、いま、YouTubeチャンネル『就活の虎CHANNEL』で、かつての裏話や本音トークを繰り広げている。放送中は番組や虎たちについてインターネット掲示板でさかんに実況され話題になったが、放送終了後十年以上が経った今でも、SNSで話題にする人が絶えない。イラストレーターでコラムニストのヨシムラヒロム氏が、かつてと現在のネット反響の違いについて考えた。
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僕が最もテレビを観ていた2000年代前半。当時、素人を主人公としたドキュメンタリータッチのバラエティ番組が隆盛していた。なかでも『¥マネーの虎』はアクが強く、今でも記憶に残っている。
主役は“虎”と呼ばれる大物社長、そして自ら出演を望んだ志願者である。“虎”に対して志願者は、投資して欲しい希望金額と事業内容を発表。質疑応答で“虎”は志願者の腹の底を伺う。最終的に“虎”が志願者もしくはプランを認め、希望金額を出資すれば“マネー成立”。志願者は“虎”から出資金を獲得できる。2001年~2004年という短い放送期間、記録より記憶に残る番組だった。出演する社長のキャラが濃いこと、濃いこと。修羅場をくぐり抜けた猛者揃い、顔からしてパンチが効いていた。
なかでも、“推し虎”は塾経営の“虎”岩井良明社長。サンドウィッチマンの伊達みきおに似たチンピラフェイスを持つ、人情派のナイスガイ。出資する確率も高く、番組全盛期から末期を支えた“虎”でもある。
そんな岩井社長、現在は塾経営を奥様に一任しているらしい。早い隠居生活ということではなく、自身は教育関係の広告代理店業を営む。事業拡大のため、2018年からは『就活の虎CHANNEL』なるYouTubeチャンネルも開設。企業と就活生を繋げるプラットフォームを目指し、日々動画を配信中。時代の機微に合わせ、”虎”はYouTuberへと姿を変えたのだ。
“虎”のYouTubeデビュー、実はこれが初めてではない。過去、3匹の“虎”が集まり動画を配信したこともあった。しかし、肝心の内容は情報商材を『¥マネーの虎』風に売るもので。当時の熱量を再現しようと試みていたが、志願者と“虎”のバトルがどうも芝居のように見えてしまう。トータルで残念な出来に仕上がっていた。
たいして、岩井社長のチャンネルはどうか。全ての動画をチェックしたところ、上記とは異なるテイストに仕上がっていた。やっていることを端的に表せば『¥マネーの虎』の同窓会。主なコンテンツは出演していた“虎”や元志願者との思い出話だ。
「志願者の〇〇君の時はこうだったよねぇ……」とたった1回しか出演していない志願者についても語られる。岩井社長からは、口は出すが金は出さないことで視聴者の評判が悪かった“虎”、リサイクルショップチェーン「創庫生活館」の社長・堀之内九一郎、志願者に怒声をよく上げていた飲食の“虎”小林敬とはウマがあった。しかし、人格者として親しまれていた衣食住トータルプロデュースの“虎”貞廣一鑑が大嫌いだったなんて秘話も明かされる。語られる内容は、とことんマニアックだ。